毎日新聞(6/18)から、
テーマパークのアトラクションや映画で普及してきた3D映像。一方で業界関係者などは、6歳以下の子どもの視聴は控えるよう呼びかけている。子どもに3D映像をどのくらい見せてもいいものか、不安を感じる保護者も少なくない。3D映像と子どもの成長への影響について、専門家の話をまとめた。
《映画にしろテレビにしろ、3Dが一過性の流行で終わるのか、定着していくものか、業界も不安のまま様子をうかがっているのが現状だろう。私見だが、家庭内のテレビが大型化しても、一家団欒の場もなくした家族の皆が、眼鏡を掛けてまで見る3Dの必然性を持ったドラマやドキュメントがそうはないだろう。私の20歳ごろ、「立体映画」という呼称でブランコに乗った女性が足をぶらぶらさせながらスクリーンで前後に揺れたり、投げたボールがスクリーンから客席向かって飛んでくる、といった他愛ないショットを集めた短編を見たから、かれこれ60年以上前になる。緑と赤のセロファンかパラフィンだったかを左右に張った眼鏡を掛けて見せもの宜しく眺めたものだ。私は、おそらくは3Dの将来は、持ち腐れのじり貧の道を辿ることになるのではないかと見ている。一方、子どもの目への影響が取り沙汰されているようでは、メーカーも量産体制の製造ラインを布くことには二の足を踏むことだろう。》
日本弱視斜視学会は、3D映像と目の機能の関係を調べる参考として、3D映像を見たことのある子ども(11〜12歳)6人と、その保護者(4人)にその感想を尋ねた。子どもは6人全員が「面白い。また見たい」と答えたが、保護者は4人中3人が「子どもの目の健康にやや不安」と答えた。
人間は、左目で見た世界と右目で見た世界のわずかなズレ(両眼視差)によってものの立体感や遠近感を理解している。3D映像は左目と右目に別々の映像を見せて人工的にズレを作り、立体感を出している。
現実の空間では両方の目で一つの像を見ているが、3D映像を見ているときは、左目と右目が「分離」された形で、それぞの目が別々の像を見ている。このため、両目で一つの像を結ぶ力が弱い人が3D映像を見ると、斜視になる恐れがある。
また、現実の空間では、両目の視線の先に対象物があり、そこに目のピントが合っている。だが3D映像を見ている時、目のピントは映画館のスクリーンやテレビの画面上に合っているのに、視線が合う対象物は画面より手前に出たり引っ込んだりして、ピントと視線のズレが生じる。3D映像を見て不快感や目の疲れを感じる人がいるのは、現実とのこうした矛盾のためだ。
対象物を立体的に見る力(立体視)は、生まれた後に両目でものを見るうちに発達し、6歳くらいまでにほぼ完成するという。弱視斜視学会理事長、不二門(フジモン)大阪大医学部教授は「この時期に3D映像を見ると、素因のある子どもは、まれに斜視になる場合がある」と注意を促す。6歳以下は視聴を控えた方が良いと言われるのは、こうした理由による。
実際、3D映画視聴後に急に斜視になった▽飛び出す3D本で約1カ月遊んでいた子どもが複視(ものが二重に見える)を訴えた──などの例も。不二門教授は「目の機能が正常の子どもは、3D映像を見ても問題はない」と説明。斜視の素因がある子どもの場合でも、問題が起きるのはごく一部だというが、不二門教授は「斜視のスクリーニング(健診)はほとんどされておらず、注意が必要だ」と呼びかける。斜視の素因があるかどうかは、眼科医を受診すればほぼ分かるので、気になる人はまず受診するといい。斜視の素因がなくても、左右の視力に大きな差がある場合などは、眼精疲労や複視が起きる可能性がある。
家電メーカーや学識経験者らでつくる「3Dコンソーシアム」は10年4月、快適に見られる3D映像の条件に関する安全ガイドラインを発表した。北里大医療衛生学部の半田専任講師は「『映像の飛び出し方が少ない』など、条件を守った映像なら医学的問題はない」と話す。
3D映像のテレビを扱う家電メーカーの店頭カタログには、6歳未満の子どもの3D視聴について「必要に応じて医師に相談ください」との注意書きがある。10年7月に3D機能を搭載したテレビの販売を始めたシャープ(大阪市阿倍野区)東京広報ブループの担当者は「使用上の注意点をきちんと理解して使ってほしい」と呼びかける。
だが、アニメを中心に子ども向け映画を上映する映画館では、3D映像を見て気分が悪くなった場合の対処について「保護者の方はお子様の健康にご留意ください」などと注意を促しているが、子どもの視覚に限定した対応はしていないようだ。
あるシネコン(複合映画館)の広報担当者は「映画は上映時間が短い。子ども向けの場合、製作者も急に対象物が飛び出すような映像は使わず、奥行き感を出すことに3Dを使うなど配慮している」と話していた。
実際、幼い子どもはどの程度、3D映像に接してよいのか。不二門教授は「親が近くで様子を見て、異変があればすぐに止めることが大事」と助言する。
3D映像は今後、教育現場で使われる機会が増える可能性があるだけに、不二門教授は「3Dが苦手な子どもがハンディキャップを負わないよう配慮が必要」と指摘。まだ半田講師は「ガイドラインを無視した映像作品が出回らないよう、映倫のような審査機関を設置すべきだ」と指摘し、配給側にも注意を呼びかけている。
《注意事項、配慮事項など、受け手側への要望を出さなければならないような問題点を抱えたまま、市場を広げるのは危険が大きすぎる。斜視や複視の子どもたちが増えてからでは遅すぎる。3Dは明治の時代から写真としては世に出ていたし、映画も半世紀以上も前に出現していた。それが一般的に広く社会に膾炙しなかったのには、それなりの理由があるような気がする。3Dなどは、早い時期に終焉した方がよい。》
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