性的「絶食化」の日本に未来はあるか
毎日新聞(3/18)“私の社会保障論”山田昌弘(中央大教授)から、
学校で性教育を推進しようとすると、必ず「寝た子を起こすな」という反対意見が出てくる。「性の知識を教えると興味を持ち、性的に不適切な行動をするようになるから、大人になるまで教えるべきではない」という意見である。ネットで性情報が氾濫する今、どの程度影響があるか疑問だが、現実にはそれ以上に深刻な事態が起きている。寝た子が起きないのだ。
東京都幼・小・中・高心性教育研究会の「児童・生徒の性に関する調査」の結果に驚いた。この調査は、3年ごとに実施されている。中3の生徒に、セックス願望の有無を聞く「あなたは今まで性的接触をしたいと思ったことがありますか」との質問がある。1987年には男子生徒86%、女子生徒36%が「ある」と答えた。90年代は男子68%、女子35%前後で推移したが、2002年以降急速に低下し、14年には男子25・7%、女子10・9%となった。思春期まっただ中の15歳男子の4人に3人は、「異性への性的興味」がないのである。
この草食化ならぬ「絶食化」傾向は、日本性教育協会の「青少年の性行動全国調査」でも確認されている。05年から11年にかけて、高校生や大学生の性に対する関心も性体験率も急低下している。また、国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査でも、18、19歳で交際相手がいる割合や性体験率が、05年から10年にかけて低下している。
青少年の絶食化傾向の原因には、研究者の間でもさまざまな議論がある。性情報が氾濫しすぎて興味をそそらなくなった ▽専業主婦の母親が息子の行動を過剰に管理している ▽ゲームやネットなど他に面白いものが増えた ▽性教育で性の危険ばかり強調され、性に対する恐怖心が植え付けられている⎯⎯⎯⎯などの説が出されている。
さまざまな要因が複合的に働いていることは確かであるが、私は「男女交際やその先にある性的関係が楽しいものではない」という意識が広がっているのも一因だと思っている。
私は今、香港に滞在中だが、ベンチや地下鉄車内で体を寄せ合うカップルや、中高年夫婦でも手をつないで歩いているのを見る。しかし日本では中高年はもちろん、若い人の間でも楽しそうなカップルはあまり見かけない。これではますます少子化が進むのではないか。
SF作家の星新一の作品に、若者の性欲がなくなり、日本の将来に危機を感じた政府が若者の性欲を高めるためにさまざまな手段を講じるものがある。これが、SFではなくなり、性的なコミュニケーションの楽しさを学校で教えなくてはならない時代も近いのかもしれない。
〖大人の「性体験なし」増加〗
国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査で、18〜34歳の未婚者を対象にした2010年の調査では「交際している異性はいない」と答えたのは男性61・4%、女性49・5%と前回調査(05年)より上昇。未婚者で「性体験なし」の割合も、30代前半の女性を除き、男女いずれの年齢層でも上昇した。
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