シクラメン
毎日新聞(11/23)“花のある風景”あべ菜穂子 から、《》内は私見。
灰色の雲に覆われ、すっかり冬景色となったロンドンの街で、健気に我ここにあり、とひとり小さな声で主張している花がある。
シクラメンである。日本でも人気のある鉢植えシクラメンとは違う、野生のシクラメン。葉を落とした木の根本や冬枯れの花壇の片隅で、背丈15㌢ほどのからだにピンクやうす紫の花びらをまとい、静かにたたずむ。そこだけ新しいいのちが宿ったかのように。
原産地は南欧。晩秋から冬を通じて次々と花をつける。耐寒性にすぐれ、積雪にあえば雪を持ち上げて花を咲かせ、氷点下の気温にもびくともしない。しかし、小柄な姿は可憐である。
古代ギリシャの時代から人々の暮らしとともにあった。根には出産を助ける薬効があり、その効用があまりに高いので、妊婦がまたぐと流産すると信じられた。花を終えたら花茎がゼンマイのようにくるくると縮まるため、ギリシャ語で「キクロス」(“輪”の意味)と呼ばれたがのがシクラメンの名の語源。イギリスには16世紀末ごろ伝わったとみられ、花の薬効と迷信がギリシャからそのまま渡来した。
《もう、何年になるか随分と昔、正月用に紅白の2鉢を購入した。買ったときは大輪の花をつけて見事な飾りになったが、それから年を経るごとに花は小振りになり、赤い花をつけていた鉢は枯れてしまった。それからまた、3、4年が経つ。年を経るごとに花は小さく背も低くなったが、毎年咲く花の数は逆に増え、冬の淋しい棚に真っ白な彩りを添えてくれる。ロンドンの便りにもあるように寒さに強いばかりか暑さにも強く、外に出して放置しておいても枯れたと見えながら、再び健気に息を吹き返す。今年も葉隠れにたくさんの小さな蕾を準備し、開花を待っている。(写真)》
今年も小さな蕾を準備して、開花を待っている
日本で出回る大輪の観賞用シクラメンは、ペルシャ産の原種が20世紀はじめにヨーロッパで品種改良されて生まれた。こちらは冬に家庭の窓辺や居間を優雅に飾るが、戸外では生き延びることのできない「箱入り」シクラメンである。
本来逞しい生命力を備えたシクラメンは、人間の手が加わって美しいがひ弱な花に変身したのである。(ロンドン在住ジャーナリスト)
《我が家のものは、正月用として購入、上に拠ればペルシャ産のはずだが、特別の管理もしないままに戸外に放置しておいたが、翌年の枯れ木に花のような発芽に驚き、それ以来、戸外で管理してきたところ1株になったが命長らえて毎年暮れから早春までの長期間、花を咲かせてくれている。》
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