「40人学級復活で人件費86億円削減」できる - 2 -
文部科学省は「いじめの認知件数増加は、35人学級により教員らの目が行き届いて発見できた成果と考えている。早急に少人数学級を導入した秋田や山形では、好成績維持や、長期欠席率の低下などの効果が出ている」と反論する。
《財務省は、先に少人数学級を導入した学校のデータとの比較を比較する考えにも及ばなかったのか。目先の86億円削減できるとする自分たちに都合のいい数字ばかりを眺めただけで、「それみろ、駄目じゃないか」と言いたげだ。》
海外の教育事情に詳しい学習院大教授の佐藤学(教育学)は「財務省は少人数化と学力向上の効果を疑っているようですが、世界各国の研究では、40人から35〜30に下げても統計的に顕著なデータは出ていないが、20人以下では学力面などで著しく効果が出たという結果がいくつもある。少人数学級は『教育の質を上げるため』の世界の潮流。現在は1クラス20人程度が主流で、議論にすらならない。財務省はあまりに近視眼的。教育は支出ではなく『未来への投資』という考えに変えるべきです」と主張する。
《企業も同じだ。「企業は人なり」は経営の根本哲学だが、その人を質ではなく、数と捉える経営者は多い。》
疑問は当の財務省OBからも出ている。主税局などに6年間勤めた民主党の衆院議員、古川元久は「各省庁の予算案をカットするのが財務相の仕事とはいえ、例えば初等・中等教育など自分の担当部署内、いわば『たこつぼ』の中でしか物事を考えていないからこんな提言になる。同じ文科省ならトラブル続きで実用化の見通しが立たない高速増殖原型炉『もんじゅ』など、他に削るべきところはあるはずだ」と批判する。
主計局OBで政策研究大学院大学名誉教授の松谷明彦は「財政支出を抑えるならば、膨張し続ける国家予算の主因である年金や医療などの社会保障費をまずカットすべきなのに、財務省はまだ殆ど手をつけていない。さらに法人税減税も受け入れた。それでいて40人学級復活で教員の人経緯費80億円程度の削減を提言するとは、非情にバランスが悪い」と指摘する。
そしてこう推論する。「財務省は元々官邸と太いパイプを保ち、政権を牛耳りたいのが本音。現在はそれがうまくいていないようだ。財務省が慎重だった法人税減税は、経済産業省の要望が官邸に受け入れられたともおわれています。いわば財務省の意向が抑えられて形。だから『何とか存在感を示したい』という焦りが出たのではないか」。
前出の寺脇は文部省職業教育課長時代の体験を振り返る。バブル景気のころ「食料は輸入すればいい。農業高校はもういらない」と不要論が流れた。「バブルはいつか終わる。食料自給の問題が注目され、必ず農業が見直される時代が来る」と、主計局の担当者らと折衝を重ね、その結果、存続の必要性ありと施設整備費用が認められた。
「成果の検証は必要だが、数年で測れるものではない。彼らとは20、30年後の国の未来を考えて議論しました。今回、財務省がそこまで考えたのか、はなはだ疑問です。少人数学級は、少子高齢化という危機の時代を生きる子どもたちが、力を発揮できるようにするためのもの。長い目では社会へのリターンとなる」と力説した。
さらに、「近年、政治主導が進み『役人は黙っておれ、政治が決める』という風潮が強まって結果、どの省庁の官僚も天下国家より自分の省庁のことばかり考える傾向が強くなった。財務官僚は元来、政治家に多少無理を言われても、国家の将来を冷静に考えられる『官僚中の官僚』です。だからこそ財務省には国家ビジョンの議論をしてほしいのに、遂にそれができなくなったのか」と嘆いた。
40人学級が復活するかはまで不透明だ。財務省はもう少し懐の深さをみせてもよいのではないか。
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