DNA鑑定で父子 認めず
毎日新聞(7/18)から、
DNA鑑定で血縁関係が判明しても法律上の父子関係は取り戻せないと判断した17日の最高裁判決は、科学の発達で鑑定が身近な存在となった現在でも、「子の福祉」を理由に、明治時代から続く民法の嫡出推定の規定を優先させた。だが、判決は家族の形が多様化する状況も踏まえ、規定が社会の実情に沿わない現実も指摘した。5人の裁判官のうち4人が立法の課題に言及し、法整備の論議を国会に強く促した。
民法772条が「妻が結婚中に妊娠した子は、夫の子と推定する」(嫡出推定)と定める背景には、子の法的関係を早期に確定させることが「この福祉」につながるとの理念がある。最高裁はこの理念を堅持し、例外的に法的な父子関係を取り消せる条件を改めて厳格に判断した。
嫡出推定が及ばなくなる要件について、最高裁は1969年、「妻が妊娠時に夫と完全に別居しているなど夫婦の実体がない場合」との判断を示した。夫が海外に単身赴任中という例や、刑務所に服役中などのケースが当てはまるとされた。2000年には最高裁が「家庭が崩壊しているというだけなら、嫡出推定は適用される」と例外を厳しく限定。法律上の父子関係を重視する傾向が強まった。
今回の訴訟は、DNA型鑑定の結果が、嫡出推定規定の例外となるかが争点となった。近年では血縁関係をほぼ100%特定できるとされる鑑定と、明治期に制定された民法との間で、裁判官の意見も割れた。結果として3対2で民法の規定が優先されるとの判断が導かれたが、議論が交わされた形跡もうかがわれる。
反対意見を述べた金築裁判官(裁判官出身)は、DNA型鑑定の精度の高さを評価したうえで「子が血縁上の父と同居している場合、子の養育に元夫が実質的に関与するのは事実上困難だ」と指摘。「夫婦関係が破綻して子の出生の秘密があらわになっており、かつ生物学上の父との間で法律上の父子関係を確保できる状況にあるという要件を満たす場合」は例外と認めるべきだと主張した。
多様な裸族の形が現実となる中、法整備に期待する意見も相次いだ。
桜井裁判官(行政官出身)は補足意見で「裁判所が個別の事件を解決するのではなく、科学技術の進歩や生殖補助医療の進展などの事情を踏まえ、立法政策の問題として検討されるべきだ」と注文。山浦裁判官(弁護士出身)も補足意見で「DNAは人間の尊厳に関わる重要な情報で、乱用してはならない。重要事項について法解釈で対応できないのであれば、十分議論をした上で立法するしかない」と言及した。
772条の規定は、これまでも時代に即して見直すべきだという声があったが、伝統的な日本の家族制度を維持すべきだという改正に慎重な意見が勝り、議論は進んでいない。
また、DNA型鑑定で血縁関係を否定され、裁判を経ないまま親権をあきらめる法律上の父親など、同様の問題を抱えている当事者は少なくないという。こうした人たちに明確なルールを示す意味でも、判決を受けた積極的な立法論議が求められる。
“なるほドリ”から、
DNA型鑑定で分かった血縁関係よりも、民法の「嫡出推定」が優先されるという最高裁判決が出たそうだけど、どういうこと? 民法772条は1項で「妻が結婚中に妊娠した子は、夫の子と推定する」と定めています。母と子の関係は出産を通じて明らかになるが、民法が制定された明治時代、科学的に父と子の関係を証明するのは困難だった。このため、法律上の父子関係を早く確定し、子どもの身分を安定させる仕組みを作った。現在では、DNA型鑑定によって血縁関係を比較的簡単に証明できるため、時代遅れにも思えるが、最高裁は法律がある以上、それを優先させるべきだという結論を出しました。
《法治国家として、法律が優先することは当然のことで、憲法を好き勝手に曲げようとする安倍晋三に率いられる現政権があるからといって、最高裁までもが、その悪事を見習ってはならない。772条が姦通や浮気が普通に行なわれる現状の性慣例にそぐわないのなら、そしてそれが正しいとするのなら、それに見合う法に改正することが先だ。》
Q 他にも問題があるの?
A 772条は2項で「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定する」と定めている。このため、離婚から300日以内に生まれた子が実際は再婚相手との間の子である場合でも、前夫との裁判を経ないと、新しい夫の戸籍に入れることができない。こうしたケースでは、離婚した前夫と連絡が取れないと子を戸籍に入れられず、無戸籍になってしまう問題が生じる。当事者からは「実態にそぐわない法律だ」との批判の声もあがっている
《すでにブログでは何度も取りあげてきたが、772条2項の法を無視し、妻が夫以外の男との間になした子は、不倫の子であり、DNA鑑定で夫以外の子であると証明されれば、現行法では、それは不倫の事実(どのような言訳があろうとも、個人の勝手)を証明することに他ならない。》
Q こういう法律は変わっていないの?
A 最高裁が昨年、結婚していない夫婦の間の子(非嫡出子)の法定相続分を、法律婚の夫婦の子(嫡出子)の2分の1とした民法の規定を憲法違反だとする判決を出したため、この点の改正はようやく実現した。「嫡出子」は「正当な子」という意味合いを含んでいるため、非嫡出子を差別する用語だという指摘もある
Q 嫡出という考え方自体を見直す時期に来ているのだろうか
A そうだね。戸籍法は「嫡出子または嫡出でない子の別」を出生届に記載する義務を規定しているが、昨年末にこの規定を削除する法改正も検討された。自民党の了承が得られず実現しなかったが、欧米ではすでに「嫡出」という考え自体がなくなっている。明治期に制定された家族を巡る法律が現在の社会や家族観に本当に馴染んでいるのか、見直す時期に来ているのではないだrろうか
民法改正し明確な基準を
棚村政行・早稲田大法学学術院教授(家族法)の話 離婚や再婚が増えるなど加増関係が多様化する中で、DNA型鑑定や生殖補助医療が進歩し、明治時代にできた親子関係を決める法律が現状に合わなくなっている。こはや個々のケースごとに裁判で解決する限界を超えている。民法を改正して子どもの視点から親子関係を定める明確な基準を定めるとともに、DNA型鑑定を利用する際のガイドラインを整備する必要がある。
私的な鑑定 禁止するべきだ
水野紀子・東北大大学院教授(家族法)の話 嫡出推定は、生物学的なつながりがない父子関係が一定の割合で存在することを前提としている。今回の判定は血縁を絶対視せず法律的な父子関係をより重視しているが、さまざまな「正義」を考慮したうえでの線引きだったと評価できる。日本は親子鑑定や生殖補助医療の領域の法整備がほとんどなされておらず「無法地帯」の状態にあるといっていい。父子関係の混乱を避けるためにも、私的なDNA型鑑定は禁止すべきだ。
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