鳥獣保護法の改正
毎日新聞(3/19)から、
シカやイノシシによる農作物被害などが深刻化し、鳥獣保護法が抜本的に改正される。改正に向けた答申をまとめた中央環境審議会(中環審)小委員長の石井信夫・東京女子大教授(専門は哺乳類保護管理)にインタビュー。
☻中環審の答申を基に鳥獣保護法改正案が今国会に提出された。そのポイントは?
現行法は野生鳥獣の捕り過ぎを防ぐ仕組みが基本になっている。改正案は、ニホンジカやイノシシなど、種によっては積極的に捕獲を進めて数を減らすという考え方を明確に打ち出し、そのための仕組みを定めている。
これまで捕獲の主な担い手は趣味で狩猟をするための免許を持つ人たちだったが、技能や安全管理体制などの基準を満たす団体や企業を「鳥獣捕獲等事業者」として認定する制度を導入し、捕獲を専門とするプロの育成を促進する。都道府県や国が〔鳥獣捕獲等事業」を認定事業者に委託して実施することで、より効率的に捕獲が進むと期待される。
【鳥獣捕獲等事業者】
鳥獣保護法改正案に盛り込まれた新制度。捕獲に関する安全管理体制や、所属する狩猟者の技能・知識が一定の基準に達している企業や団体を都道府県知事が認定する。ビジネスとして狩猟を担う団体が参入することで、効率的に捕獲が進められると期待される。
☻野生鳥獣に被害はそれほど深刻なのか
鳥獣による農作物の被害額は、農林水産省が調査を始めた1999年度から年に200億円前後で推移し、2010年度は239億円に上っている。そのうち、90年代から目立つようになったニホンジカによる被害額が約80億円、イノシシと合わせて全体の6割以上を占めている。
シカが植物を食べることによって、ササなどの下草がなくなる、樹木が枯れて森林が衰退するといった自然環境の激変も日本各地で起こっている。南アルプス高山帯のお花畑の消失、尾瀬の湿原の荒廃など、多くの国立公園でも歴史上初めてといえる事態が起きている。植生が変われば、そこに見られる希少な植物や鳥、虫なども消えてしまう。こうしたことの背景には個体数の増加と分布域の拡大がある。シカの分布域は78〜03年の間に1・7倍、イノシシは1・3倍になり、その後も拡大している。
☻シカやイノシシが増えた原因は何?
狩猟圧の低下と、生息に適した環境の増加が主な要因と考えられている。狩猟免許所持者の減少と高齢化は急速に進んでいる。天然林を伐採してスギやヒノキを植える戦後の拡大造林はシカの餌場を増やした。シカやイノシシの良い住み場所になる耕作放棄地や利用されなくなった里山林も広がっている。冬期の死ぬ率が低下したこと、狩猟規制の緩和が遅れたことなども関係していると言われている。
【狩猟免許所持者】
減少が続いており、最近40年で6割以上減り、2010年度は約19万人。高齢化も進み、60歳以上が約64%を占める。鳥獣保護法で認められる捕獲には、①趣味などの狩猟 ②都道府県知事などによる許可捕獲(被害防止、個体数管理)があるが、②の場合も実際の捕獲は地元猟友会が行なうことがほとんど。免許所持者の減少が許可捕獲の担い手不足に直結している。
☻捕獲強化には、動物愛護などの観点から反対の声もある。
動物を殺すのはかわいそうという気持ちは自然な感情だと思います。でも「捕獲は安易で、殺さずに済むやり方があるのではないか」という考えは都市生活者の幻想です。農作物や生活環境の被害を抑えるために、今でも都道府県知事などの許可の下に「有害鳥獣駆除」や「個体数調整のための捕獲」が行なわれ、鳥獣捕獲数は年約100万頭に上っている。そのうち、10年度はイノシシが約25万頭、シカは約20万頭で、2種ともに狩猟による捕獲数を超えている。
これだけの動物を毎年殺すことによって、野菜や米など私たちの食料が生産され、生活が守られていることを認識してほしい。時に危険な「有害駆除」に携わっている人たちには感謝するほかない。しかし今の捕獲レベルは十分でなく、今回の法改正提案に至った。捕獲しなければ、動物の数は更に増えて農林業被害はもっと深刻化し、衝突事故や生活被害も増える。自然からも多くのものが失われる。それは誰も望まない。
☻自然との関わり方が改めて問われている。
動物である人間は生態系の中の「消費者」であり、他の生き物の命を取り、住む場所や食物を巡って他の動物たちと争わなければならない存在だ。昔の人にとっては、農作物を荒らすシカやイノシシの数を抑え、山に押し込めることは、死活問題だったと思う。今はその緊張関係が弱まっている。自然から切り離された都会に暮らしていると分からないが、ある側面では本来の人と自然の関わり方に戻ることが求められていると思う。
☻今後の課題は何?
新しい仕組みができたとしても、実際に効果を上げるには、人材の確保や育成が必要だ。捕獲事業が適切に行なわれるよう専門家を自治体に配置するなど体制作りも欠かせない。捕獲強化だけでなく、長期的には生態系全体の保全を考慮して山の環境を整えていくことも重要になる。
また、現状や捕獲の必要性を多くの人に理解してもらう普及啓発が課題だ。捕獲された動物を山の幸として活用することも、そのために役立つと思う。狩猟が自然を守るのに貢献することを広く知ってもらい。特に若い狩猟者が増えることを期待っしている。
《常々、殺した動物の肉を口にしながら、クジラやイルカの捕獲に、同じ口で異を唱える動物愛護を唱える人たちを筆頭に、殺した動物の皮を纏って暖をとる人、足に履く人、肩から下げたり脇に抱える人、首に巻く人たち。可愛がるつもりの動物自身には余計で迷惑なトリミングや首輪にくさり、人間の独りよがりの自己満足でしかないのが理解できないのか。石井教授の説も分かるが、動物たちが現状のように住みにくくなったのも、我が物顔の偉ぶった人間の開発に次ぐ開発の結果そうなったものだろう。記事には特に目立つ大きな字で「狩猟は自然を守る」と書くが、私には、人間の勝手な言い分にしか聞こえない。私はこれまでに『命』の問題として多くを書いてきたが、数篇を参照に付す。》
参照 世界遺産「白神山地」シカ食害危機 2013/10
「秩序ある狩猟」 2011/09
知床、尾瀬国立公園で初の鹿駆除実施へ 1010/07
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