食道癌のリスク高い「飲酒+喫煙」
毎日新聞(2/13)『ドクター中川の癌の時代を暮らす』から、
食道癌で亡くなる芸能人が続いています。今年もやしきたかじんさん(64)や女優の淡路恵子さん(80)がこの癌で命を落としました。僕の母校、暁星学園(東京都千代田区)の先輩である中村勘三郎さんも、2012年末に食道癌で悲しい最期を遂げています。
《「人間わずか50年」の時代から、ほぼ30年も長く生きられることが、その余計に延びた時間の間に積み重なって病魔に襲われる機会が増えたともいえる。やがてはそうなることを知りながらも、大好きな酒やタバコを心残りなく嗜み、多くの人に看取られて成仏できたのだから己自身は思い残すこともない幸せな人生だったろう。》
芸能人に食道癌が多い理由は、「飲酒+喫煙」の生活習慣にあるといえます。たかじんさんは、私も治療法などについて何度も相談を受けたことがありますが、療養中も大好きなワインを嗜んでいました。淡路さんも、遺族がブランデーとたばこを柩に入れたほど、酒とたばこを愛していたそうです。勘三郎さんも酒好きでした。30年近く癌治療に携わってきましたが、食道癌の患者さんで、酒にもたばこにも縁のない例は殆どなかったと思います。
酒とたばこは、食道癌を増やす「リスク要因」ですが、量が増えるとともに危険性が高まります。たばこの場合、喫煙指数(1日の箱数×喫煙年数)が20未満では、食道癌になる確率は吸わない人に比べて2・1倍ですが、指数が40以上になると4・8倍に跳ね上がります。
飲酒は、日本酒に換算して1〜2合では、2・6倍、2合以上では4・6倍になります。芸能人に多い「飲酒+喫煙」は特に危険で、リスクが10倍に達するという研究もあります。さらに、ヘビースモーカーが顔を赤くしながら3合以上お酒を飲むと、食道癌のリスクは30倍以上ともいわれます。芸能人には、こんな人が多いのかもしれません。
また、勘三郎さんの場合、診断された時点でリンパ節に転移がありました。食道癌は胃や腸と違い、臓器の外側を覆う膜がないため、早い時点で転移が起きるのが特徴なのです。最近は手術と並び、放射線と抗癌剤を併用する「化学放射線治療」も広がってきましたが、放射線だけの治療に比べ副作用が強く出る傾向があります。
食道癌のリスクを減らし、予防するため、野菜や果物を食べる方法もありますが、何といっても、「禁煙+節煙」が最良の予防法といえます。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)
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