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2014年1月22日 (水)

DNA、親子関係最前線

 毎日新聞(1/20)から、

 親子にとって大切なのは血のつながりか、一緒に過ごした時間かをテーマにした映画「そして父になる」、新生児取り違え訴訟、そして芸能人の長男が実子か否かをめぐる騒動。生物学的な親子関係に白黒はっきりつけるDNA鑑定に注目が集まっている。どれくらい身近なものになっているのだろうか。

 DNA親子関係を手掛け、映画やドラマの撮影の監修もする東京都新宿区の民間機関「法科学鑑定研究所」にある日、2人の娘を連れた父親がやってきた。姉妹は科学に興味があるといい、父親は「実験」のつもりで鑑定を申し込んだ。試料となる口腔粘膜細胞の採取は専用の綿棒で口の中を軽くこするだけ。親子は楽しげに研究所内を見学し、解析に使うチューブを土産に帰って行った。

 数日後、親子3人が再び研究所を訪れた。報告書を開いた父親の顔が青ざめた。姉との親子関係は証明されたが、妹の生物学上の父である確率は「0%」と完全否定されたのだ。父親は娘たちを先に帰した後、一人頭を抱えた。「これからどうしたらいのか」。一年後、父親は離婚はしないものの妻を実家に帰し、姉妹は戸籍どおり「実子」として育てることに決めた。研究員の桜井は「DNA鑑定が手軽にできる環境は整ってきました。しかし結果を想定しておくべきで、安易な気持ちではすべきでないと思います」と話す。

 米国の研究機関に試料を送って鑑定する業者が多い中、この研究所は自前で鑑定できる設備を持つ。科学捜査を担当した警察OB数人も在籍している。料金は
 ①簡易鑑定 4万2000円
 ②より精度の高い国際基準を満たした鑑定 8万4000円
 ③裁判所への提出を前提とした法的鑑定 14万7000円
15年前までは②で約25万円かかったが、技術の進歩とともに安くなった。研究スペースも以前は小学校の体育館ぐらいの広さがだったが、現在は8畳ほどの部屋で対応している。

 ドラマや映画で広く知られるようになった影響もあり、依頼は5年前に比べ倍増(数字は非公表)。最も多いのは30代の夫婦が親子鑑定を求めるケースで、団塊世代の男性からも多い。「30代は一番子育てをしている世代で、もめ事も多いからからかもしれません。団塊の方々は現役時代に家にも帰らず働き、定年を迎えてようやく家族のもとに帰り、ふと『自分の家族だという科学的な証明が欲しい』と思われる場合が見受けられます」と桜井。自ら出産したはずの母親から「育児をしていて違和感を覚える。自分の子か調べてほしい」と依頼されるケースも増えているそうだ。

《育児中のわが子に「違和感を覚える」とは何だろうか。自身の子への日常の接し方を振り返ることはしての上のことなのか。あるいは産院での出産とすれば、子どもの取り違えを疑ってのことなのか。もっと勘ぐれば、脛に傷持つ夫以外の異性との心当たりでもあるのだろうか。》

 経済産業省の「遺伝子検査ビジネスに関する調査」によると、血縁関係の有無や遺伝性の病気のリスク、さらに運動潜在能力や芸術・音楽の素質を調べるための「遺伝子検査ビジネス」は利用者数も業者数も増加傾向にある。中にはインターネットで注文し、自分で試料を採取して郵送するだけで結果が分かり、2万円程度というお手軽な業者も存在する。明確な法的規制はなく、経産省が「個人遺伝情報保護ガイドライン」を示し、関係者間に異論がないことに留意するといった自主規制を業者に求めるにとどまっている。

 前妻との間の子が実子かどうかをめぐって騒動となっている男性俳優。父親が母親側や子どもに事前に十分な説明をし、同意を取り付けなくても鑑定ができしまう現状に問題はないのか。

 別の民間機関「ソリューション」(東京都江戸川区)は全国の裁判所から嘱託や指定を受けての鑑定が大半。船越社長は「女性側には内緒で、父子間だけで鑑定をしてほしいとの男性からの相談は非常に多い。しかし、関係者全員の同意のない鑑定は技術的には可能でも、トラブルの原因になるだけです」と話す。この業者では女性の同意を得て鑑定しても、8割で父子関係が確認されている。

《離婚になる夫婦で浮気が原因とされる場合、幾つかの調査でみても、妻からの訴え以上に夫からの妻の浮気に対する訴えが上位にきていることからも、猜疑心の強い男性は、わが妻は?と鑑定に頼ることになるのが本音だろう。》

 経産省の調査を担当した専門科委員会のメンバー、東京大医科学研究所の武藤教授(社会学)は「一番の問題は子どもの福祉が置き去りになっていることです」と指摘する。韓国には生命倫理安全法があり、親子鑑定の検査機関は国の登録制だ。法に基づき国が設置した遺伝子検査評価院という団体が施設の衛生環境や検査の正確さを隔年で調べ、結果が公表される仕組みだ。韓国以外でもドイツなど、安易に遺伝情報を覗き見ることを規制する国は多い。

《家族制度の崩壊、箍の外れた性モラルの結果が行き当たりばったりの結婚、離婚となって母子家庭、父子家庭を量産する。》

 武藤教授は「遺伝情報の確認は人生を左右するような特別な行為。弱い立場の人、特に子どものためになるケースに限るべきです。例えば親権を巡る裁判を早く決着させるために仕方なく、とか。技術が進んで安くなり、試料も採取しやすくなったからといって、法の規制がないのは日本ぐらい。自主規制ではこの流れは止まりそうにない」と警鐘を鳴らす。経産省生物化学産業課の担当者は「具体的な被害が多発するようであれば、対応を考えたい」と言うが・・・。

 「私は育てた人が親だと思っているから、DNA鑑定なんてやってみようとも思わない。『病院で取り違えがありました』なんて言われても、今更息子を交換できません」と話すのは作家の室井佑月(43)だ。「普通は育てたら愛情がわいてくるものでしょう。DNAが違ったからといって、一緒に過ごした期間の大事な思いでが消えるわけじゃない」。祖母の葬式でのこと。「父は6人兄弟で、兄と姉だけがすごく美男美女。ばあちゃんが亡くなるとき、その姉が枕元で『私は誰の子?』と聞いたら『おらの子だ』って。それを兄弟皆で笑い話にしていました」。昔から父親違いの兄弟は存在したが確かめる手段もなく、寛容に受け入れてきたんだろうと室井は推測する。

 武藤教授は「伝統的イエ制度のもとでは一族が続くことが大事であり、男子や跡取りの偏重という別の問題はあったものの、取り敢えず誰の子でもいればよかった。その制度が崩壊した今は、家族や愛情の根拠をDNA鑑定に求める『血縁主義』の風潮が強まっているように感じます。家族とは本来、血縁にこだわりすぎずに人間関係を基礎として構築されるべきものなのですが」。

 親子の「血」のつながりを確認する前に、家族と何かをとっくり考えておく必要がありそうだ。

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