評価割れる「義足の挑戦」
毎日新聞(7/19)から、
《ロンドン五輪。テレビなどでは健常者に混じって走るランナーが、物珍しさと英雄視の混じったような取りあげ方で報道がされているが、私には決してまともなことではい、と解釈している。「義足」とあるように、彼の場合、どれだけ早く走れようが、他の参加者のように己の生の肉体の限界に挑戦するものではないからだ。補助器具を使う彼の参加できるのはパラリンピックではないのか、と考えるからだ。毎日紙が取りあげたのも、「どうなんだろうか?」だ。使用する器具の発達、発展した競技には棒高跳びのように、初期の「竹」から現在ではグラスファイバーに代わった種目もあるが、これは参加者全員が等しく使用することの公平性がある。逆に言えば健常者がパラリンピックに参加することも異常ではないことになる。》
今月4日、ロンドン五輪の陸上男子400メートルと1600メートルリレーの南アフリカ代表に選ばれ、義足ランナーとして初の五輪出場を決めたオスカー・ピストリウス(25)は、「人生で最高の瞬間。努力が実って嬉しい。五輪にピークを合わせたい」と感慨に浸った。
08年の北京パラリンピックでは短距離3冠を達成。その3種目の世界記録保持者でもある。今年5月に英マンチェスターであったパラリンピック・ワールドカップ(W杯)では200メートルに出場。コーナーを抜けると、板バネ状の義足が小気味よく回転して加速。2位に4秒近い大差をつけ、「カーブは遅かったけどエンジョイできたよ」と微笑んだ。
先天性の障害があり、生後11カ月で両足の膝下を切断。義足で競技を続けてきた。論議を呼んだのは、弾力性のあるカーボン繊維製の義足が、国際陸連で禁止する「ハネや車輪など選手に利益をもたらす器具」にあたるかという点だった。国際陸連は07年にドイツの大学に調査を依頼し、材質や動作を解析。健常者よりも約25%少ないエネルギーでスピードを維持できると結論づけ、08年1月に健常者のレースへの参加を認めないことを決めた。だが、スポーツ仲裁裁判所は「他選手よりも有利であることを十分に証明していない」と判断。五輪への道が開かれた。
北京五輪当時は参加標準記録を突破できなかったが、昨年7月に400メートルで自己新の45秒07をマーク。初めて世界選手権に出場した。400メートルは準決勝敗退ながら、1600メートルリレーは予選で第1走者を務め、南アフリカ記録樹立に貢献。決勝は欠場したが、銀メダルを手にした。今年も3月に五輪参加標準記録A(45秒30)を突破する45秒20を出した。
北京パラリンピックで日本チームに同行した義肢メカニックの沖野敦郎(33)は「(競技用の義足は)誰もが簡単に扱えるものではなく、努力のたまもの。カーボン素材の堅さの規定はないが、加えた以上の力は与えられない」と話す。一方、国際パラリンピック委員会国際技術委員で、和歌山県立医科大助教でもある三井利仁(48)は「感情論で判断すべきではない。素材や重量、反発力などのルール作りが必要」と指摘。「下腿部に与える負荷や疲労度なども検証すべきだ」と話し、肉体への影響も懸念する。
五輪では新たな課題も浮上しそうだ。スタートに難があるピウトリウスは、リレーでは立った状態で走り始める第2走者以降の方が加速しやすい。ただし、レーンが限定されず内側に殺到するため、バトンの受け渡し時などで他選手と接触する危険性もある。世界選手権では別々のレーンを走る第1走者となったが、接触事故が起きれば問題化するのは明白だ。しかし、国際陸連は第1走者以外でも出場可能との見解を示している。
かねて「義足によって不当なアドバンテージを得ているなら、僕は出場しない」と主張し続けてきたピストリウス。だが、公平性や危険性の点から疑問視する関係者がいるのも事実。義足の障害者が五輪に出場するという前人未到の挑戦は、ハイテク機器と努力の融合をどう評価するかという問題を突きつけている。
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