月経中のスポーツ
毎日新聞(6/5)から、
《見出しを見て、今も目に焼き付いた即座に思い出す光景がある。1985年の第7回東京国際女子マラソンのゴール前の映像だ。当時スポーツ大国だった東ドイツの選手、ビルギット・ワインホルト(21)が30キロ手前から生理現象を起こし、経血をにじませながら最後まで走りきり、同僚のカトリン・ドーレに次いで2位でゴールし、恋人だったコーチの胸に泣き崩れた時の感動だ。》
現在、月経を理由にトレーニングを休んだり、試合を棄権したりする女性アスリートはまずいないだろう。それでもなお月経中にスポーツをすることに不安を訴える声は少なくない。
《学生の頃、体育の時間に何人かの女生徒が体操着に着替えることなく他の生徒の動き回る姿を脇で見学している姿を見かけたものだ。》
月経中のスポーツを禁じる医学的な理由はなく、むしろ体を動かすことは血流を改善させ、気分を高揚させることから月経痛の軽減に有効であることが明らかになっている。日本臨床スポーツ医学会産婦人科部会は一律に禁止せず、月経痛や経血量、心理的要因など個別の事情に応じて個々に可否を判断すべきだとする「月経中のスポーツ活動に関する指針」を出している。
それはなぜ、月経中のスポーツが問題視されてきたのであろうか。古来、月経は「不浄のもの」と忌み嫌われる傾向が強かった。産業革命後、19世紀以降の欧米社会では、月経は女性の労働能力を明らかに低下させるため、医療の介入が必要なものであるとされた。
その西洋医学を積極的に取り入れた明治時代の日本でも「月経中の女性はか弱く病的であるため、仕事や運動、過度の勉学を控えるべきだ」といわれるようになったのだ。その風潮に拍車を掛けたのが「生理休暇」の存在ではないだろうか。終戦直後の1947年に制定された労働基準法に明記された生理休暇は、当時認められたばかりの女性参政権とともに、働く女性の「権利」として注目される一方、「月経中の女性はおとなしくしていなければならない」というイメージを定着させた。
しかもその取得は自己申告によるため、当の女性が請求をためらいがちになるほか、月経痛のない女性や男性に不公平感を生むなどの問題もある。業務に支障があるような月経痛は「月経困難症」と呼び、医療の対象となるため、本来は「病休」でいいはずなのだが。
月経痛は子宮内膜症などの重大な疾患のサインであることも多く、現在は鎮痛薬や女性ホルモン製剤が次々と開発され、日常生活に支障がないように治療できるようになった。「このくらいは大丈夫」と我慢せず、早めに婦人課を受診してほしい。「病気じゃないから痛くても我慢しなさい」という時代から「病気じゃないからこそ苦痛を我慢しないで」という時代に変ったのだ。月経痛でスポーツを楽しめない、仕事にも行けないという女性がいなくなる時代は確実に近づいている。
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