観光馬車に動物保護の波が
毎日新聞(6/28)から、
【ウィーン駐在】から。「フィアカー」と呼ばれるウィーン名物の観光馬車が動物保護の波に揺さぶられている。馬の「労働条件」を改善するため、営業時間の短縮から給餌後の休憩まで定めた新たな規則が今春から導入された。だが、動物愛護団体から「内容が不十分」との批判の声が上がる一方、経営を圧迫された営業側からも反論の声が聞こえる。声なき馬たちの表情を探った。
《動物愛護の声が上がるたびに「またか」と思う。声を上げ、叫んでいる人たちは殺した牛や豚の肉は一切胃袋には入れないのだろうか。彼らが食うために殺す動物だけは動物とは言わないのだろうか。身ぐるみ剥いでなめし、財布にしたり靴やカバンにしたり、利用できれば毛皮まで身にまとう。観光馬車の馬が虐待されていると言うが、競馬で鞭打たれる馬を見るために着飾り、賭け事に夢中になるのは虐待を眺め楽しむためではないのか。》
《私が動物虐待と見るのは、動物の心が読めない人間が、人間の勝手な思い上がりで犬に服を着せたり、リボンを結んだり、雨具を纏わせたり、靴まで履かせたり、ひも(リードと呼ぶらしいが)をつけて引き回したり、品種改良などと称して珍種を拵えてみたり、品評会のために耳を切ったり、毛の刈込みをやってみたり、危害を予防するためとて轡をはめたり、去勢する方が余程虐待と思うのだが間違っているのだろうか。》
《或いは、大空を自由に飛び、或いは大地を走り回って自らが捕食していたのに、その草原から捕獲されて鉄の檻に閉じ込められ、飛ぶことも走ることもできなくなり、与えられる餌を食べるしかなくなった世界中の動物園に囲われ、さらし者にされている動物たちは、檻の中で保護されているとでも言うのか。》
《もしも、動物保護を叫んでいる人たちが、たった50年遡った時代に生き、牛馬を使って耕作して得た食糧で生計を立てていたなら、一日じゅう野に出て牛や馬に鞭打っても疑いを抱くことはなかったろう。これも時代が変わった、で済ますのだろうか。》
【閑話休題】
主に旧市街の観光名所を案内するフィアカー業者は大小合わせて約30社。営業中の客車数はおよそ60台に上る。外国人観光客でごった返すシュテファン教会脇の上車場には、20台以上が客待ちの列を作っていた。馬車はすべて2頭立て。この季節、日中の気温は30度近くに上がる。馬たちは教会堂の陰で御者が掲げるバケツの水に喉を鳴らしていた。
《ローマでもミラノでも、ハイデルブルクでも同様の風景は必ず見かける観光地の風物詩ともなっている。》
「これまでは酷暑の中、日陰のない場所で水も与えられないまま何時間も客待ちをさせられるケースがありました」。動物愛護団体「フィア・フォーテン」のハウザーはこう語る。新規則の施行によって、日陰のない乗車場は別の場所に移転することになり、水飲み場の設置や定期的な給餌、給餌後の少なくとも1時間の休憩も義務化された。
最大の変更点は、すべての客車を奇数日用と偶数日用に二分し、交互に使用するよう制限したことだ。同じ馬に2日続けて客車を曳かせないのが狙い。午前9時から午後11時までだった従来の労働時間も朝夜1時間ずつ短縮された。御者は営業日誌を携行し、馬の労働・休憩時間を記載しなければならない。
ウィーン市獣医局のライスプ局長は「営業日誌の携行義務化で抜き打ち調査を容易にし、馬を傷つけないよう装具にも規制を設けるなど『動物の権利』に配慮しました」と胸を張る。だが、ハウザーは「労働時間の短縮は2時間だけ。監視の目をかすめ、同じ馬に連日別の客車を曳かせることもできます」と指摘、「フィアカー全廃」の要求を崩さない。
《そういえば、40年以上前になる。上野動物園の入り口を入ってすぐの右側に、猿が運転する子ども向けの1周15〜20メートルほどの乗物があった。これも猿が可哀相ということで廃止になったいきさつがあった。》
「馬は私の家族で、大切な財産。大事にするのは当然です」。シュテファン教会脇の上車場で、御者の正装に身を包んだウォルガング(46)は馬の首筋を優しく撫でた。客車1台と馬3頭だけの個人営業のため、新規則の導入によって月の半分しか働けなくなった。「客車が1台しかない千さな会社はやっていけない」と話す。
「馬の体をよく見比べてください」。ウォルフガングに言われて居並ぶ馬の群れを観察すると、後ろ脚から脇腹にかけての肉付きにばらつきがあることに気づいた。「痩せた馬は働き過ぎ。毎日客車は替えても、馬を替えていないからです」と指摘。「反対にうちの馬は太り気味。獣医師はもっと走らせろと言いますが、新規則のため5日に2日の割合でしか走らせることができません」と溜息をつく。
「人間も馬も働き過ぎはいけませんが、休み過ぎもまた良くありません。馬のことをよく知らない人が作った規則には賛成できませんね」とウォルフガングは話す。
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