弔いのかたち
葬儀をせずに、遺体を荼毘に付す「直葬」が広まっている。葬儀の煩わしさを避け、故人とゆっくりお別れができるという。都市部を中心に、寺院との結びつきや親戚つき合い薄れており、近しい家族だけで静かに故人を送りたい人が増えている。
横浜市に住む税理士(56歳女性)は2月、義父(88)を老衰で亡くした。義母は既に他界し、近所のマンションで1人暮しだった。無宗教だったため通夜や葬儀は行なわなかった。
業者に依頼し、市内の見送りのための施設「ダビアスリビング」《リビング型葬儀施設》を1泊2日で利用した。マンションのような作りで和室にキッチン、バスルームを備え、宿泊もできる。
夫(63)の兄弟夫妻、本人の両親ら計11人が集まり、夕食会を開いた。傍らに義父の柩を置き、オプションメニューの出張調理の和食コースを食べながら、故人の思いでを語り合った。
翌日は「明るく見送りたい」と、色とりどりのスイトピーを大量に注文。約1時間かけて柩内に敷き詰めた。僧侶に読経してもらう代わりに、般若心経をみんなで朗読した。
本人は「葬儀の手間に煩わされずゆっくりお別れでき、満足している」と話す。気を使わせたくないと、職場でも義父の死去を知らせなかった。夫は「みんなと話すことで喪失感を少しは埋められた」としながらも、「生前に葬儀の希望を父に聞いておけば、迷わずにすんだかもしれない」と話した。
費用は火葬代なども含め約80万円。請け負った「神奈川こすもす」(川崎市)によると、遺体搬送や火葬だけの17万円のコースもあるという。経済的な理由から直葬を選ぶ人のいるが、香典を集める葬儀に比べ、必ずしも安くなるとは限らない。清水社長は「簡素な見送りと、自分たちに必要なものだけを追加するオーダーメードの見送りと、直葬も二極化している」と話す。
通夜や告別式を行わない場合、自宅に多くの弔問客が訪れることもある。家族を亡くし精神的に一番苦しい時に、来客一人一人に応対するのは負担が大きい。また、住宅事情から遺体を自宅に安置できない人も多く、マンションではエレベーターが狭く、遺体を寝かせた状態で家に入れられないこともある。
JR新横浜駅近くにオープンした葬祭施設「ラステル新横浜」では遺体を預かり、故人にお別れにくる面会者にも対応するサービスを実施している。冷蔵機能のあるスペースに遺体を安置し面会者が来ると、焼香台のある面会室に柩が自動搬入される。スタッフも24時間待機する。
仕事帰りの遺族や知人が夜遅くに訪れても、故人と心行くまでお別れできる。遺体の安置や火葬代など含め、1泊2日で31万5000円から。面会者は基本的に受け入れるが、事前に遺族の依頼があれば特定の人の面会を断ることもできる。
施設の田中・ラステル事業部長は「直葬を選ぶ人も、亡くなった方を丁寧に送りたいという気持ちは同じ。いかに最後のひとときを良いものにできるか、お手伝いした」と話す。
<東京では約3割>
葬送に詳しい茨城キリスト教大の森教授(法社会学)は「葬儀は故人と社会がお別れする意味があったが、最近は家族のものという意識が強まっている」と話す。「東京都内では約3割は直葬とされ、都市部に顕著な現象だったが、最近は地方でも約1割を占め全国に広がっている」という。
葬儀が簡素化する背景を、森教授は、生前の医療や介護に費用をかけて葬儀はシンプルにするという考え方や、霊魂の存在を信じなくなったことなどを指摘する。「子どもや周囲に迷惑をかけたくない」と故人が生前に希望する例も多いという。他方、子や孫だけで直葬してしまい、故郷の親戚から「葬儀なしでは区切りにならない」「義理を欠いた」などの不満が出てトラブルになることもある。
《私はこれまで「死」について何編かの記述を残してきた。簡潔に言えば「葬儀は不要、墓無用」だ。》
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