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2012年2月26日 (日)

ハーグ条約要綱案、「日本特有」視は誤解の危険

 毎日新聞(2/25)“メディア時評”から、《 》内は私見。

《これまでも常々、日本がハーグ条約を語る時、DVが前面に持ち出されて語られることが多いが、当事者でもないが、私には納得のいくものではないことを繰り返し書いてきた。》

 同志社大法科大学院教授・コリン・ジョーンズが、大阪毎日に書いたものを東京紙で取りあげている。
 「ハーグ条約」加盟に向け、日本国内の手続きの仕組みを検討してきた法制審議会の担当部会が国内法整備に当たっての要綱案を公表した。だが、この内容に関する報道をみると、無断で子を日本に連れ去った側が、子どもの返還を拒否できる場合について、誤解を招きかねない説明が多い。

 参照 ハーグ条約要綱案 2012/01

 1月24日毎日新聞朝刊の社説が「日本独特の事情もある」「日本では、日本人の母親が子どもを連れ帰る例が多数に上る」としているが、他の条約国でも母親が自国に子どもを連れ帰るケースは多く、むしろ条約上の「典型例」だ。同じ日の読売新聞朝刊社説も「家庭内暴力から逃れようと日本へ帰国した母子は多い」としているように、日本メディアのほとんどの報道は「外国人のDV(ドメスティックバイオレンス)夫や虐待父から、日本人女性をどう保護するか」を出発点としている。だが、そうした事例の裏付けや統計は示されていない。DVがからむ事件も、ハーグ条約の条約国共通の課題で、日本特有の事情ではない。

 「子どもの利益」が理由にされると、人は簡単に納得してしまうが、誰が何に基づいてその判断をするかが肝心で、今まで子どもが生活していた国の司法が判断することが条約の趣旨だ。条約に「例外措置」は抽象的に定められているが、今回公表された日本の国内法整備案では、配偶者へのDV、子どもへの虐待、連れ去った親が元の国で子を養育することができない場合など、条約が定めた「例外」の趣旨を越えた運用が容易となる返還拒否理由などが認められているようだ。
 
 毎日の社説は、「自国民の保護」や「子どもの利益」を考えれば、DV規定の明示には一定の説得力があるとしているが、果たしてどうだろうか。日本の児童虐待件数の約6割は実母が加害者だ。外国の法律で親としてふさわしくないとされる行為が問題となってから、日本に子を連れ帰るケースもあり、そのような場合、子どもの利益が担保されるかが疑問だ。条約では親子の国籍や性別は関係ない。父母や子が全員日本人の在外邦人家庭でも適用を受けるはずで、「外国人対日本人」または「男対女」の構図ばかりを強調するのは考えものだ。

《島国根性の身贔屓(みびいき)、日本人特有の浪花節的人情論を揶揄されているようだ。》

 他の条約国でも抱えている課題を「日本独特」なものとし、条約が子どもの利益を目的としているのに、親の国籍次第で運用体制が変わってしまえば、国際社会にどう映るだろうか。日本は捕鯨条約に加盟しているにも拘わらず、その例外措置を根拠に、「調査捕鯨」の名目で多量のクジラを捕っていることで、捕鯨の是非とは別次元で「誠意がない」と批判されてきた。ハーグ条約の運用が同様の批判を招かないことを祈りたい。

《最後は坊主憎けりゃ袈裟まで憎い式で、トバッチリをクジラに向けているが、ハーグ条約要綱案への杞憂には耳傾ける必要はありそうだ。》
 

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