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2011年5月28日 (土)

世界記憶遺産

 毎日新聞(5/27)から、
 【世界記録遺産】または「世界の記憶」とは、
 ユネスコが主催する三大遺産事業の一つで、危機に瀕した歴史的記録(世界史にとって重要な個人的記録)遺産を最新のデジタル技術を駆使して保全し、研究者や一般人に広く公開することを目的とした事業。1992年に創設された。以来、フランスの人権宣言やオランダの「アンネの日記」、韓国の「朝鮮王朝実録」「承政院日記」、中国の「古代ナシ族トンパ文字による歴史的文書」や故宮博物院所蔵の「清代歴史文書」など、2006年9月現在で57カ国120点が登録されている。長い間日本からは推薦がなく、国内でも知名度は低かったが、遅ればせながら2012年3月までに日本ユネスコ国内委員会はいくつか推薦する予定のようだ。候補としては「御堂関白記」、「慶長遣欧使節関係資料」(いずれも国宝)とを、日本政府として初めて推薦することを決定。
 また、日本政府とは別に、福岡県田川市と福岡県立大学は共同で2010年3月、炭坑労働を記録した画家・山本作兵衛が描いた筑豊の絵約700点を推薦していたが、2011年5月25日これら697点の作品が国内初の記憶遺産として登録された。

<選定基準>
 1. 影響力
 2. 時間
 3. 場所
 4. 人
 5. 対象主題
 6. 形態及びスタイル
 7. 社会的価値
などの1次的な基準と、
 8. 元の状態での保存
 9. 希少性
など、2次的基準が設けられている。(Wikipedia より)

 「カンテラを提げ、腰を屈めて坑内をくだる男と女。赤ん坊を負った少年を振り返りつつくだる女坑夫。切羽に挑む男。裸体である。背から両腕へかけての、彫りもの。/ういういしい筆さばき。つややかな意志」
 福岡県.筑豊の炭坑の労働や生活を描いた山本作兵衛(1892〜1984)の絵画や日記697点が、国内から初めてユネスコの世界記憶遺産に登録されることが決まった。

 冒頭は山本と接した作家、森崎和枝が山本の絵を賞賛した文章だ(藤原書店「森崎和江コレクション・精神史の旅 2 地熱」より)。カンテラは照明具、切羽は石炭の採掘現場のこと。確かに山本の絵を見ると、地の底で働いた無数の人々の喜怒哀楽が伝わってくる。

 山本は現在の飯塚市生まれ。子どもの頃から炭坑で働き、63歳まで炭坑夫や鍛冶工として働いた。絵を描き始めたのは夜警をしていた60代半ばになってから。昔のヤマの姿を子孫の語りぐさに残すのも一興と思い、脳裏に浮かぶままに描いたという。

《森崎の書は知らないし、山本の絵に接したこともないが、登録を知らせる報道でその幾カットかをテレビ画面で目にすることができた。その絵が描かれた時代は知らないが、子どものころ(第2次世界大戦中の増産を呼び掛ける戦時体制)の記憶の中で、街なかに貼られた炭鉱内の採掘現場を描いたポスターの絵が瞼に焼き付いて残っている。山本の絵の中にも何枚か目にできたが、上半身裸の男が鶴嘴(ツルハシ)を大きく振りかぶる横で、これも上半身裸で乳房を剥き出しの女が、掘り出した石炭を拾い集める姿を描いたものだ。現在のように、赤児に乳を飲ませるだけでも胸元を隠したがる女には、非常時とはいえとても真似のできない当時の女の姿だ。ただ、現在は唯一、女性が働くことができない職場だが・・・。》

 卓抜な記憶力で甦ったのは、山本の少年・青年期が多い。つまり、日露戦争前後から米騒動の時代になる。舞台は中規模炭坑が主だ。職工(鍛冶)と炭坑夫の両方を体験し、炭坑の全体像を知っていたことから、絵が幅広いものになった。卓抜な記憶力と客観的な描写から、かけがえのない記録が残された。

 題材は激しい労働にとどまらない。災害、宴会、入浴、幽霊、縁起など多岐にわたる。どの絵からも、陽光の射さない暗闇で素っ裸で生きる人たちの生の 熱気が伝わってくる。

 石炭は日本の急速な近代化を促進し、殖産興業を支えた。山本が描いたのは、そんな私たちの歴史の深層にある民族の記憶だ。それが現場にいた労働者自身の手で残されたことになる。登録はまさに相応しいといえるだろう。

 国宝でも文化財でもない山本作品が登録される意味も大きい。実は地元では炭坑遺跡などを世界文化遺産にすることを目指したが、選考に漏れた。その時に関連資料として提出した山本作品が海外の専門家に高く評価された。外国の評価で私たちの文化の価値を改めて示された経緯になった。

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