高齢者の万引き
毎日新聞(9/9)から、
「万引き」という社会の病が重篤化している。
検挙・補導数は高止まりだ。質的にも高齢者の検挙者が20年前の7倍近くにはね上がるなど、かつての「少年の犯罪」とのイメージは一変した。背景には「孤独」や「生活苦」の影響も指摘されている。
《『犯罪』が、いまや「孤独」や「生活苦」というエクスキューズで道徳や法律を押しのけ、容認されたかのように取り扱われる。しかし、同じ高齢者として、同じ年金生活者として、そのような甘ったれた生き方は断じて許さない。》
「怒りしか出てきません。罪の感情がなく、ただで手に入るならそれでいいという印象がある」。さいたま市浦和区の三洋堂書店北浦和店の店長は憤る。同店では、小品に万引き防止用の商品管理タグを付けている。レジで勘定の際に外すが、付けたまま商品を持ち出すと出入り口のゲートが反応する。万引きする側も知っているらしく、平積みした本や本棚の下に、抜き取られたタグが落ちていることが月に十数回あるという。
防犯カメラには、高校生らしき少年が平積みされた人気少年漫画を次々にバッグに入れるのが映っていたこともあった。ゲームの攻略本を万引きした小学校低学年くらいの男子は入店して5分で出て行った。「手慣れ過ぎた感じがやりきれません」と店長は話す。
中部地方などに約90店を展開する同社は05年8月から、事件処理に当たった従業員、警備員の人件費を、万引きした人に請求している。昨年度は70件30万9285円を請求し、9割が支払った。同社は「経費の実費請求が世間の常識になれば、安易に万引きする風潮も改められるのでは」と期待している。
《人件費の実費請求は法的に認められているのだろうか。万引きの後ろめたさで表沙汰に出来ず、言われるままに対価として支払うことに問題はないのだろうか。法律家の判断を聞いてみたいが。》
全国の刑法犯の認知件数は、戦後最高を記録した02年(285万件)以降、7年連続で減少したが、万引きについては02年を上回る。検挙・補導者も、92年に6万人を切ったが、09年には11万3083人に増加。中でも89年に3987人だった65歳以上の高齢者は、09年は2万7019人と7倍近く、この間の高齢者人口の伸び(2倍)を上回っている。検挙・補導者に占める割合も4・1%から23・9%に増加している。
警視庁は昨春、万引きの容疑者の生活状況などについて、担当取調官に調査を行い、高齢者204人を含む1050人分の回答を得た。「心理的背景」(動機)では、高齢者の最高は「孤独」で23・9%。少年(4・0%)や高齢者以外の成人(16・3%)よりもかなり多かった。
また、生活状況では、1人暮しが4割で、友人が「いない」「少ない」が9割近い。「相談できる相手がいない」「生き甲斐がない」もそれぞれ5割で、他の世代より高かった。生活が「困窮」「やや困窮」との回答は、49・0%。収入がないのは63・7%。万引き目的の9割が自己消費で、盗んだものは8割近くが「食料品」。額は5割強が「1000円以下」だった。
「孤独」「生活苦」は厚生労働省の「国民生活基礎調査」からも窺える。09年の高齢者世帯(65歳以上だけか、18歳未満の未婚者が加わった世帯)89年の3倍の962万3000世帯。うち単独世帯も3倍の463万1000世帯になっている。年間所得が200万円未満の層は、全体では19・4%だが、高齢者世帯では39・5%と倍だ。
数年前まで」ケアマネージャーを努めていた結城・淑徳大准教授(社会福祉額)は「高齢者の所得化憂さは大きい。毎月国民年金の5万、6万円で暮らしている人も多い」と話す。結城が担当した中にも、家賃2万円台のアパートに暮らし、残りの3万、4万円で光熱費、食費を賄う人がいた。閉店間際のスーパーで値引きされた食材を買っていたという。
《私は、何度も書いてきたが来年には80歳になる。退職金をはたいて終の住処をつくり、現在は家賃で苦労することがない反面、たった一つの収入源の年金から固定資産税を払うことになる。この年になってもまだまだやりたいことは山ほどある。孤独だ、生活が苦しいなど泣き言など言っている暇はない。》
しかし、なぜ「孤独」だと、いい大人が「万引き」に走るのか。犯罪予防を研究する坂井・桜美林大教授(倫理学)は、警視庁の調査を分析し「多くの高齢者が孤独でしょうが、万引きする人はほんのわずかです」と前置きした上で次のように見ている。
「人は会社,家族など周囲に評価され、励まされることで、自分が大事な存在だと思えます。一定の社会的責任を果たしている人は悪事に手を出さないものです。だが、独り身や定年退職で社会関係が希薄になると、自分は誰にも大切にされていない、何の役にも立っていない無価値な人間だという気分が生じやすい。『どうせ自分は』と卑下すると、ルールを守る意識も低くなってしまう」
さらに坂井は「財布にお金があっても万引きするケースは多い。お金がすべて、お金がなければ不安という風潮も影響している」と指摘する。アルツハイマー病などの影響を指摘する専門家もいる。
《一定の社会的責任を果たしている人の悪事は掃いて捨てるほど起っている。また、他人から大事にされていないと思うことや、無価値な人間だと思う気分が3段論法的に老人を万引きに引き寄せるものとは思えない。スーパーなどで万引きが見つかり,事務所で糾される老老爺、老女たち、「お金を払えばいいんでしょ」と開き直る姿からは,坂井が説明する思索の裏付けがある人となりは、とても汲み取れない。》
一方、少年はどうか。依然として比率では「高齢者」「その他の成人」より多いが,検挙・補導者は09年で3万7008人と20年前からほぼ半減している。先の警視庁の調査では、動機は「ゲーム感覚」が26・8%で最高だった。
《彼らの世代はモラル喪失の世代だ。親からも、学校教育からも道徳律は何も学んでいないようだ。》
大阪家裁総括主任家裁調査官などを努め、多くの非行少年に接した藤川・京都ノートルダム女子大教授(臨床心理学)は「10年ほど前,少年犯罪が社会問題化した。減少は学校現場が取り組みを強化した結果でしょう」と話す。
《「取り組みを強化」とは何をどうしたのだろうか。道徳教育を推し進め、犯罪予防に力を入れたのか、或いは取締りを強化し管理体制を敷いたのか。》
ならば、高齢者の万引きも減らせるのではないか。結城は「防止には周りのサポートが必要。孤立化させないようにすべきだし、お金がないなら早く生活保護につなげる必要がある。警察は万引きした高齢者に福祉的な支援が必要と感じたら、行政の福祉部門と連携して何をするかを考えないと、再犯は防げないだろう」とみる。
坂井は指摘する。「一番大切なのは社会全体が[万引きは犯罪だ』と態度で示すこと。見つけた店は必ず警察に届けるべきだ。人と人とのつながりを大切にした社会づくりも大事。年を取ると仕事や趣味での自己実現は限界が見えてくる。些細なことでも周りに何かをして『ありがとう』と言われる方が満足感が得られ、自分の価値を実感できるのではないか」」と。
《本人が気を遣うほど、周りは彼や彼女に注視していないし、評価する目で見てはいない。犯罪は犯罪として厳しく取り締まるのが当然なのだ。》
坂井らの提言を受けて、警視庁は今月から万引きの検挙者に、地域活動や警察の防犯活動などへの参加を促し、立ち直りを支援する活動を始めた。・・成果を期待したい。
《犯罪(万引)が起るのを待って、捕まえてから何かを対策しよう、ということのようだ。果たして如何ほどの効果が期待されるのだろうか。》
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