院内感染の真因は要員不足にある
毎日新聞(9/17)“くらしの明日”欄から、
【院内感染】
病院など医療機関は細菌を殺す抗生物質や消毒薬を多く使うため、薬剤耐性を持つ細菌などが生じやすい。一方、病気だったり、免疫抑制剤を使ったりして感染に対する抵抗力が低下している患者は感染・発症で重症化したり、死亡するケースがある。多剤耐性菌の場合、ほとんどの抗生物質が効かないため、発生の未然防止が必要で、手洗いや消毒の徹底が重要とされる。
「私の社会保障論」として、埼玉県済生会栗橋病院副院長・本田 宏 は言う。
帝京大学病院は3日、多くの抗生剤が効かない多剤耐性菌アシネトバクター・バウマニに院内感染し、死亡した患者9人は、死亡と院内感染の因果関係が否定できないと発表した。森田茂穂病院長は「命を守る病院でこのようなことをして申し訳ない」と記者会見で謝罪した。
ベッド数1154床である同病院の院内感染防止対策の専従職員は、医師と看護師各1人しかおらず、病院のホームページでは「今後感染対策に従事するスタッフの充実化と、職員の感染対策教育をより徹底することで、再発防止に全力を尽くす所存」との決意が表明された。
さらに、同病院の保健所への報告の遅れや、警視庁が業務上過失致死の疑いがないか病院関係者から事情を聴き始めたことなどが報道されたが、その後、アシネトバクターは今年2月以降、愛知県や東京都の世田谷、板橋区等の病院でも検出されていたことが判明した。今回の耐性菌問題は、帝京大に限った特殊例ではないことが明らかになっている。
感染性は極めて普遍的に見られる疾病で、世界の年間死者数の3分の1を占める。日本感染症学会は08年、日本の300床規模以上の医療機関(約1500施設)には感染症専門医が常勤すべきで、専門医数は3000〜4000人程度が適性との見解をまとめた。しかし今年4月8日現在、その数は1015人で、日本看護協会が認定している感染管理看護師も1179人(今年7月現在)だけだ。
《計算だけなら幾らでも好きなところ、いや、必要な部署に数字を案分していくことは可能だ。しかし、その部署を希望して働きたい医師や看護師が集まらなければ机上の計算で終わる。現実に産科医不足や小児科医不足は施設の破綻や閉鎖を招いている事実がある。》
このため、地域の中核病院のほとんどで感染症専門医が不在で、看護師不足のため認定看護師も「専従」「兼任」で感染管理業務に関ることが難しいのが現実だ。一方、欧米では感染症専門の医師や看護師の配置はもちろん、病院で疫学を担当する専門家まで育成して感染症対策の軸として現場に投入している。現在の日本の病院は、たとえ感染症関連のデータを集めても、解析して現場にフィードバックしたり、感染対策を実施する中心となるスタッフがいないのが実態だ。
今回の耐性菌問題について「手抜きや怠慢、努力不足が問題の根幹ではない。感染の問題を最小限にするための人材・時間・予算が与えられていないことに注目すべきだ」という怒りのメールが、感染症に詳しい知人の医療者から届いた。人類が抗生剤を使う限り、多剤耐性菌は次々に生まれる。先進国最低の医療費と、医師をはじめとする医療スタッフの絶対数不足を放置したまま、犯人捜しを繰り返していたのでは、現場の時間と努力がさらに奪い取られるだけだ。
《感染症専門の医師や看護師の不足を泣き言で言っても何も解決もできない。なぜ、産科・婦人科にしろ、小児科にしろ、その専門科目を選ぶ人材がなぜ生まれないのか。例えば、女医全体でおよそ660人も増えたのに、産科医は6人しか増えなかった埼玉県の実態『医師数、最下位の水準(埼玉県)10/05』を、どのように判断すればいいのだろうか。「不足,不足」のかけ声だけでは問題は解決しそうにないことが分かる。本田の立場からなら、具体的な対応策でも出ないのだろうか。欧米の取り組みを羨ましそうに紹介しているが、もし、同じような仕組みを日本に取り入れるとすればどうしたらいいのか、二つや三つの構想ぐらい提案できないものだろうか。
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