100歳まで働ける社会を
毎日新聞論説委員の倉重篤郎が5月10日、『視点』で書いている。
「高齢者の生き甲斐問題で究極の解決策は就労だ」「となると、コミュニティーの中で高齢者が活躍できる場所の拡充が必要になてくる」「高齢者のキャリアコーディネーターを育成したらどうだろうか」
学者と企業人との熱っぽい討論が続く。東大の高齢社会総合研究機構が国内の民間企業35社と昨年4月から始めた「ジェロントロジー(老年学)プロジェクト」。高齢化のピークとなる2030年を念頭に、互いに知恵を出し合い理想的な社会を築くためのロードマップ(行程表)を2年がかりで作ろう、という試みだ。
《現状,働きたくても働けない働き盛りの若者が、職もなくて将来を悲観し自殺する人間が増えているのに、目も耳も足腰も、衰えて尿漏れも激しい老爺、老婆たちが働くことのできる職種をどのように考えているのだろうか。『働ける社会』の働くの字から“にんべん”を外した福祉や医療面など寝たきり老人にならないための『動ける社会』をつくる方が先決ではなかろうか。100歳まで生きても、草のように生きているのでは働くことなど到底無理なことだ。》
参加企業は、自動車・機械メーカー・食品・生活用品メーカ、流通・外食産業、建築・不動産業、金融業、医療・福祉機関など多岐に亙る。毎月1回の勉強会を開き、合宿や分科会で議論を重ねてきた。企業側の関心は勿論高齢化対応の新商品、サービスの開発だが、異業種交流会としての役割も兼ねた産学の最先端の情報交換は、未来像の枠を広げている。
《集まったメンバーからは、どうやら働ける社会を作るためのインフラづくりの相談ごとのようだ。そんな相談ごとよりは、100歳まで動けるためには現在の男79.29歳、女86.05歳の寿命を100歳まで伸ばすためにはどうするか、だ。》
3月にまとめた中間報告では具体例が72項目もあげられた。100年間立て替えなしにリフォームだけで使える住宅技術の普及、高齢者でも安心して利用できる超小型電気自動車の開発、尿漏れなど排泄トラブルへの医学的サポートの確立、迷子や徘徊者を識別し保護する見守りシステムの整備など、幾つものアイデアが出された。
注目したいのは、高齢化対策として最も重要だと思われる就労環境の理想として、100まで働ける「就労バリアフリー社会システム」の成立をうたっていることだ。勿論若年層の就労機会が優先されるのは当然だ。だが、報告は高齢者の就労目的を生き甲斐への創造、技術の伝承、社会への貢献と位置づけている。そして、高齢者が
1)無理なく楽しく自分の能力・経験を生かし続けられる場所作り
2)年齢にかかわらず個人の潜在能力が適正に評価される制度の定着
3)何歳でも何度でも転職、起業できる市場環境の育成
を課題としている。
理想はあくまでも理想だ。しかし、20年後に日本の高齢化率が3割を超え、75歳以上が現在の倍の2300万人になることが想定されている以上、100歳までの就労モデルはある意味では現実的課題といえる。
長命社会を対象とした産学連携の共同研究は大いに期待したい。世界最速の高齢化を遂げる日本に見本はなく、その意味では、研究から試行錯誤を重ね、日本モデルを世界に発信していくしかないからだ。
《机の上では、2030年までには働ける100歳人口がどれだれ生まれるのだろうか。計算とグラフで作る数字は如何ようにも都合良く操作することは可能だ。いくら世界最速で老人が増えているとはいえ、2030年に働くことの可能な100歳に近い爺さん(私がいきていれば99歳だ)婆さんたちが社会問題になるほどいることは先ず、いや絶対にないだろう。》
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