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2010年4月21日 (水)

古代文化財は 母国に返還して

 毎日新聞()から、《 》内は私見。
 《エジプトからに限らない、ギリシャや朝鮮も同様の略奪に近い文化財が持ち去られている。日本が植民統治時代、朝鮮から持ち出した国宝(朝鮮王朝実録)もあって、先年、東京大学から返還されている。これについて書いたとき、ギリシャやフランス、旧ソ連の略奪或いは戦利品として持ち帰った文化財についても触れておいた。参照:「朝鮮王朝実録」寄贈か返還か 06/06 》

 国外に流出した古代文化財の返還を求めて、エジプトが各国への働きかけを強めている。今月初旬にはカイロで国際会議を開いて「被害国」の共闘を演出、「保有国」に圧力をかけた。ただ「文化財を母国に戻すのが筋」との主張に対し、保有国からは「受け入れ態勢の問題」などを指摘する声もある。「人類共通の財産」ともいわれる貴重な文化財を巡る動きをみてみよう。

 エジプトが今、特に返還を求めている文化財は6点。古代の神聖文字解読の手掛かりになったロゼッタストーンや、エジプト王ツタンカーメンの義母ネフェルティティの胸像などがある。

 【参照】
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 •ロゼッタストーン ・・ 1799年、フランスのナポレオンがエジプト遠征した際にロゼッタで発見した石碑。2年後、エジプトに侵攻した英国がこれを奪い、大英博物館に収蔵した。碑文は紀元前196年の宗教会議の布告を3種類の文字で書き写したもの。
 •ネフェルティティ ・・ 1912年、英国の支配下にあったエジプトでドイツ発掘隊が発見。当時発掘された文化財が両国で「山分け」された契約文書がある。だが、1924にベルリンで公開以来、エジプトは契約の不当性を主張して返還を求めている。

 ロゼッタストーンを収容する大英博物館は取材に「正式な返還要請は受けていない」と回答。その上で「世界中の文化的成果を示すという目的」を果たすため、大英博物館の収蔵品全体を一体として保持し続けることが必要だとの認識を示し、返還する意向がないことを示唆した。

また、ネフェルティティの胸像を収蔵するドイツの新博物館は「正当に入手した」と主張している。胸像の状態を調査した結果、長距離移動や貸し出しは無理だと強調した。

《世界の海をまたにかけて君臨していた大英帝国時代の力による獲物だ。一筋縄では返還することはないだろう。ギリシャの文化大臣、メリナ・メルクーリがアクロポリスから剥奪した現在の大英博物館の白眉ともいえるエルギンマーブルの返還を要求した際にも、聞く耳を持たなかった。ネフェルティティの胸像も又同じだ。大英帝国の支配下で、弱者の立場にあったエジプトが、公平な「山分け」ができる状態になかったことは容易に理解できることだ。》

 エジプトは現在、ギザの3大ピラミッド付近に「大エジプト博物館」を建設する計画を進めている。世界的な有名なロゼッタストーンやネフェフェルティティ像は新施設の目玉展示となり得る。国家的プライドの充足や、主要な外貨獲得源の観光収入の増加をもたらすと期待できるため、一歩も引かない構えだ。

 返還運動を主導するエジプト考古最高評議会のザヒ・ハワス事務局長は、02年の現職就任以来、「約5000点の文化財返還に成功した」とされる豪腕だ。返還が実現しない場合、保有国との文化協力や発掘隊の受け入れ拒否など強硬策もほのめかす。

 実際、エジプトは09年、フランスのルーブル美術館に対し、エジプト・ルクソールで発見された壁画を「盗品と知りながら展示した」と非難、関係を一時凍結している。

 大英博物館は「盗難博物館」とも呼ばれるなど、文化財をかつて違法・不当に強奪したとのイメージがあるが、相手国との合意や売買により獲得したものも少なくない。

 一方、エジプトが計画する大博物館建設には日本の円借款約348億円も供与される。3月下旬には併設の保存修復センターでエジプト人スタッフを対象に収蔵品の写真撮影研修が行われた。だが、博物館の運用に必須な10万点に及ぶ収蔵品データベースの構築や、収蔵品の保管・修復技術者の達成は難しい。内情をよく知る関係者は「文化財の返還自体はいいことだと思うが、きちんと管理できなければ人類全体の損失につながりかねない」と厳しい見方を示した。

《高松塚古墳の管理も満足にできなかった日本が、他国に口出しすることじゃない。これではドイツや英国が返還に逡巡している口実に、味方するようなものだ。》

 今月7、8の両日、カイロで開かれた「文化遺産の保護と返還のための国際協力に関する会議」で、エジプト考古学会の重鎮、ハワス考古最高評議会事務局長が各国代表や報道陣を前に、「我々はこれまで単独で戦ってきた。今こそ連帯するときだ」と、腕を振り声を張り上げた。

 会議にはギリシャ、イタリア、インド、中国など20カ国以上が参加した。エジプト代表団は「文化遺産は原産国に属し、(原産国の)所有権が消滅することはない」との「一般原則」を発表。7カ国、計31点の返却希望品リストを公表した。

 英植民地時代に仏陀像など多数の文化財が流出したと主張するインド。ゴーダム・セングプタ考古局長は取材に、被害国の共闘は「返還圧力を高める第一歩として歓迎できる」と述べた。だが、返還実現への困難さを指摘する声も少なくない。「保有国」に対し、不当に入手したことを証明することが容易でない場合や、売買取引されたケースは補償問題も生じ、各国の国内法や条約では限界がつきまとうからだ。

 1972年に発効したユネスコの文化財不法輸出入等禁止条約には119カ国が加盟(2月現在)する。保有国に対し、原産国から要請があれば盗難文化財の返還措置を講じるよう求めている。「盗難」に限られている上に条約発効前については対象外だ。盗品だと知らず入手した場合は補償の必要があるが、金額の査定交渉は一筋縄ではいかない。

 返還規定が強化されたユニドロワ条約(98年発効)もあるが、加盟国は30カ国にとどまっているというのが実情だ。
 

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