ノーマライゼーション条例
さいたま市がノーマライゼーション条例をつくるということだが、カタカナ条例とは恐れ入る。ノーマライゼーション*は日本語では「正常化」だ。そうなら日本語で正常化条例でいいじゃないか。ただ、最近はこの言葉は社会福祉用語として障害者、健常者の区別をなくそう、という意味で適当な日本語がなくて横文字で使われているらしい。
* -- 1960年代に北欧から始まった社会福祉をめぐる社会理念の一つ。障害者と健常者とは、お互いが特別に区別されることなく、社会生活を共にするのが正常なことであり、本来の望ましい姿であるとする考え方。また、それに向けた運動や施設なども含まれる。
毎日新聞(1/20)から、《 》内は私見。
さいたま市は、清水勇人市長がマニフェストに掲げた「ノーマライゼーション条例(仮称)」を1年後の12月市議会に提出する方針で準備を始めた。障害者の差別をなくし、暮らしやすいまちづくりを理念にうたう条例だが、肝心の障害者から「差別について市民が考える過程が大切なのに、検討期間が短い」と懸念の声が出ている。
《差別問題を考えるのに、期間が短い長いは関係ないと思う。何事も「隠す程に現れる」というのが隠したいものの、隠せない本質だが、差別問題も同じだ。何百年も続く部落問題も、長島愛生園に始まる癩の問題も、差別することはいけないと叫べば叫ぶ程隠れた部分、隠したい部分は現れる。それまで何も知らない人たちが、知らなくてもいいのに「それって何のこと?」となり、引き継がれ受け継がれて隠れ同調者を増やすことになるのだ。条例を作ることで障害者を浮き彫りにしてしまう。そうしておいてから、この人たちを労りなさい、同情しなさい、哀れみなさい、と上から目線で見るまでになる懸念があるだろう。》
《これまでにも折りに触れて書いてきたが、私の障害者に対する見方はまるで異なる。障害者を特別に障害者とは見ないし思わない。「なんだ、つんぼで何もきこえないくせに」或いは「めくら」「ちんば」或いは「どもり」のような会話ができてこそ人間同士の差別のないつき合いができる、と考える。学問所で塙保己一が蝋燭の光が消え、目の見える生徒が闇になって字が読めないとうったえた時、とっさに「なんと目あきとは不自由なものよのう」と口から出した言葉は、目の見えない世界の人間からの差別用語となるだろう。「ああ、めくらの特権ですね」。このような会話が、日常普通に交わせるようになったときこそ、対等といえるのだと考えている、現在のように腫れ物に触るような妙におどおどした、あるいは同情の押しつけのような態度は却って差別を明確にするものだ。》
清水市長は昨年末の議会で、「障害者の人権を尊重し、安心して暮らせる地域社会を形成し、自立と社会参加を推進する条例にしたい」と述べた。同様の条例は06年に初めて千葉県が制定している。市は「政令市で初」を目指し、既に学者や弁護士ら9人と障害者1人の計10人で構成する検討専門委員会を発足させ、19日に初会合を開いた。7月末までに会合を7回開いて素案を作る計画だ。
市はさらに2月にシンポジウムを開催するほか、公募した市民の意見を聞く「100人委員会」も10回開催するとしているが、千葉県では、条例案の研究会を一年間に20回開き、タウンミーティングを32回開催した。研究会の顔ぶれは、29人中12人が障害者本人か障害者の家族だった。
《どこが何回やったからこちらもそれに準じた回数必要だ、というのは参考にはならない。数打てば当たるというものではないだろう。》
障害者関係の17団体でつくる市障害者協議会の浅輪田鶴子会長は条例を歓迎しつつも、「条例を作るために障害者と一般市民が盛んに意見交換して、市民が差別の実態を知ることが重要なのに、現状では市民がまったく無関心だ」と指摘する。市障害福祉課の担当者でさえ「市民の盛り上がりはない」と話す。
《さっきも書いた。何も知らないことが最善なのに、わざわざ差別を知らせ、障害者を意識させ、同情せよ、と教えることが本当に差別をなくすることになるのか、役立つのか。》
車椅子を利用しながら地域で暮らす女性(40)も「市長主導で始まり、市民と温度差がある。半年余りで障害者と市民が権利や差別について認識を共有できるのか。ただ条例を作るだけでは実効性はない」という。
《「ノーマライゼーション」を知らなくても、駅の乗り換えの階段で、車椅子の女性を運ぶ人手が足りないのを見て、貸すことぐらいはしてきた。道路を渡る盲目の人の手を引いたこともある。また、そのような人をしばしば目にする。世の中、冷たい人ばかりではない。それらの人は、条例があろうがなかろうが、普通にすることだ。要するに、優先席と銘打っても、男も女も若者や健康人がどっかと腰掛ける電車のシートを見れば、差別の認識度は分かろうというものだ。》
朝輪会長の協議会は2カ月に一度会合を開き、委員会に条例を実のあるものにするための提言をしていくとしている。
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