通知表、所見欄の読み方
通知表(我々の世代には通信簿の方が馴染み深い)にある子どもの所見欄、これに先生たちの保護者たちへの配慮から、苦肉の策のからくりが工夫されて記入されていることが暴露されている。保護者たちは夏休み前に子供達が学校から持ち帰ってくる通知表の、教科ごとの評価もさることながら、わが子の学校における行動や交友関係などの人物評価には心して読み解く必要がありそうだ。
毎日新聞(7/16)から、
もうすぐ夏休み、3学期制の学校では通知表が渡される。所見欄に褒め言葉が多いと親としては安心するが、実は先生たちの「あからさまには書けない本音」も隠れているらしい。学校でのわが子の姿を知るには「裏読み術」が必要なようだ。
《なぜこのような姑息な手段が必要なのか。「うちの子に限って」と思いたがる保護者には、先生のあからさまなわが子の欠点指摘には我慢ならず、それこそあからさまにモンスターとなって怒鳴り込みが始まることになるからだ。子どもの欠点指摘には、親として今後の指導指針となる教訓が含まれるのだが、当今の親たちにはそれが図星であったとしても、図星だからこそ、教師であっても他人から指摘されることに我慢ならない腹立たしさを覚えることになるからだ。》
「お子さんの言葉遣いについてお話したいので、面談にいらしてください」数年前の秋、東京都内の女性会社員(41)は娘の担任からの電話に驚いた。娘は当時小学校中学年、親としては面談を受けなくてはならないほど言葉遣いが悪いとは思っていなかった、という。
振り返れば確かに、担任が娘の通知表に書いた所見には〈言葉遣いや行動が乱暴になる時があるので、注意できると良い〉とあった。家庭でも「気をつけようね」と話してはいたが、多少荒っぽいことを言っても「子どもらしく元気な証拠」と深刻には受け止めていなかったという。
女性は「所見欄の読み方が甘かったのか」と、知り合いの小学校教師に聞いてみた。すると「教師が〈注意できると良い〉と書くのは、よほど目に余り直してほしいところ。かなりきつい表現だ」とアドバイスされた。女性は言う。「所見を額面通り受け止めていたら、先生の意図を見落としてしまう。親はもっと厳しい目で通知表を読んだ方が良いのかもしれませんね」と。
《この女性のように都合良く知り合いに訊ねる教師がいればいい、素直に反省してみることも可能だろう。》
ベネッセ教育研究開発センターが05年、小学校の保護者4432人を対象に行なった意識調査では、学習の評価(成績のつけ方)への満足度は「とても満足」「満足」が合わせて60%で、「あまり満足していない」「まったく満足していない」と答えた保護者も32%いた。教師の指導力不足やモンスターペアレントの問題が取り沙汰され、学校と保護者の関係が難しくなってきた時代、親の3人に1人が通知表のあり方などに不満を感じていることになる。
《教師たち仕事を難しくしたのは誰か、それはマスコミの報道の仕方に問題があったことは確かだ。数多い中には教師としての適性を欠いた人間もいたことはあるが、時を同じくしてメディアが一斉に学校教育の総攻撃ともとれる記事を並べ、教師を罵った。保護者たちはその記事に踊らされ、子供達の目の前で先生への悪口雑言を並べ立てた。家庭教育もされていなかった子供達の先生への尊敬は一瞬にして崩壊して行った。その後の学校の荒れ様は誰もが知るところだ。その上に保護者にはわが子可愛さの身びいきがある。教師不信の上にわが子の出来が芳しくない親たちに尋ねれば、不満が表明されることなど当たり前のことだ。それを尤もらしく分析しても何の益もない。》
だが、先生たちにとって、通知表の作成は難しい仕事だ。都内のある男性小学校教師は「大事な課題や改善点は面談で伝えることが基本」と話す。「所見にはマイナスの言葉は書きません。学校でどんな変化が見られたかを保護者に伝え、足りないところがより良くなるよう、励ます言葉を選びます」。例えば〈最後までやり通せんなかった〉という子には、〈最後までやり通せるようになると良い〉と書く。
裏を返せば、保護者は〈できるようになるといいですね〉などと書かれた点は、子どもがまだできていない課題だと意識することが必要になる。
教育関係者によると、児童・生徒に問題行動があってもソフトな言葉で表すようになってきたのは、個性を重視する教育が取り入れられた90年代以降だという。通知表の所見の書き方については、教師向けのマニュアルも出版されいる。教師のための情報を発信する「教心ネット」運営責任者で教育コンサルタントの伊藤敏雄は「マイナス面は書けないので、言い換えに多くの教師が悩んでいる」と指摘する。
伊藤自身も「書き換えたい言葉一覧、文例集」を作り、ネット上に公開している。例えば、授業中騒がしい子には〈活発〉や〈元気〉。口が悪い子には〈自分の意見が言える〉などだ。最近では「学校での子どもの姿がわからない」という保護者たちが所見欄を「裏読み」するのにも活用されているという。
伊藤は「行動に問題があっても教師はソフトな言葉でしか示さないので、親は子が学校でうまくやっていると勘違いしてしまう。子どもの学校での姿を把握し、成長につなげてほしい」と話す。
教師との関係やクラスの雰囲気などでも、子どもの言動は大きく変る。通知表は中身に過剰に神経質になるよりも、教師とのコミュニケーション手段と位置づけ、家庭と学校が手を取りあって子を育てていくことに生かしたい。
《本当のことが言えない所見など、ない方が良い。こんな筈ではなかったのに、とすぐに別れてしまう最近の結婚、離婚のきっかけになる甘い言葉のやり取りと同じ世相そのままじゃないか。耳障りの良い言葉だけを並べ立て、真実を見えなくしてしまう。『耳が痛い』『良薬口に苦(にが)し』とは古人の智恵だが、苦言を言ってくれる人がいるということがどれほど有り難いことか、子どもたちの成長のためにも真実の言葉で書き留めることができるようになれば良いと思う。》
♦通知表に書きづらい言葉の言い換え
子どもの様子 通知表での表現
騒がしい 明るい、活発な
頑固な 意思が強い
無口、ぼーっとした 落ち着いた、穏やかな
暗い おとなしい
不まじめ 活動的、行動的
うるさい 活発、元気がいい
怒りっぽい 感受性豊か
落ち着きがない 好奇心旺盛
いいかげん こだわらない
威張っている 自信に満ちている
口が悪い 自分の意見が言える
反抗的 自立した
不親切 他人に干渉しない
無責任 とらわれない
負けず嫌い 努力家
しつこい 粘り強い
意見が言えない ひかえめ
甘えん坊 人にかわいがられる
面倒くさがり 物事にとらわれない
ふざける ユーモアがある
冷たい 冷静
などなど。
《これほど褒め言葉がちりばめられれば、親たちは、わが子の欠点など知りようがないどころか、有頂天になり、自慢したがりの親たちは、鐘や太鼓を叩いてご近所に触れ回るのではないか。これが現在の教育なのか。》
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