体外受精で他人の受精卵と取り違え
《医学が進歩と言う言葉で神の領域に入ってから、命の問題が科学と同じように扱われてきた。「生命倫理」の上からは多くの問題を残したままだが、子どもが欲しいカップルにとっては神にもすがる思いだろう。ただ、注射器や試験管、シャーレの中で操作される精子と卵子の働きをやり取りする「もの」で、「生命の神秘」とは遠い科学の世界のようだ》。
簡単に人工授精の歴史にふれると、
人工授精 1776年にイギリスで初めて成功。生殖医療技術の一つで、人為的に精液を生殖器に注入することによって妊娠を実現することを目的とした技術のこと。日本では1949年に初めて成功している。それによって生まれた子を試験管ベビーと称して、始まったころは倫理の面からもメディアに取り上げられ、しきりに「試験管ベビー」の活字が踊った。現在日本では、1年あたり約1万人の新生児が人工授精または人工受精技術により生まれているとされる。
体外受精* 1978年、イギリスのマンチェスターに近いオールダム総合病院で、世界で初めて女児が誕生。日本では1983年、東北大学医学部付属病院での誕生が初めて。
顕微授精** 1989年、シンガポールで初めて成功。1992年、ベルギーで妊娠・出産に成功。同年日本でも初めて成功。
* 受精・・精子と卵子が結合すること(これについては論議があり、核の結合をもって受精とみなすとの考えっもある)を指す。
** 授精・・精液を人為的な手法によって体内に注入すること。
ICSI(細胞内精子注入法)による顕微受精(Wikipediaより)
排卵誘発剤や外科的手法によって得た卵子を体外で精子と接触させ人為的に受精を行なった後、培養した胚(受精卵)を子宮内などに戻して妊娠を図る手法。
毎日新聞(2/20)から、 《 》内は私見
香川県は19日、県立中央病院(高松市、松本祐蔵院長)で昨秋、不妊治療中に体外受精ををした20代女性の子宮に、間違って別人の受精卵を戻した可能性があり、妊娠9週目で人工妊娠中絶をしたと発表した。院内のマニュアルには受精卵の培養などの手順だけが記され、事故防止についての記述はなかった。病院はトラブルを厚生労働省に報告していなかった。取り違えを疑って、女性が人工中絶に至ったことが発覚したのは国内で初めて。女性と夫は県側を相手に、約2000万円の損害賠償を求める訴訟を高松地裁に起した。
この日、記者会見した県側の説明では、産婦人科の男性担当医(61)が昨年9月20日、シャーレに入った受精卵を体内に戻し、10月7日に妊娠が確認された。シャーレには女性の名前は書いていなかった。女性はそれまでの体外受精に失敗していたが、この時だけは経過が順調だったことから担当医は取り違えを懸念。作業手順を振り返ったところ、本来、受精卵を検査する作業台上に置くシャーレは同じカップルのものにするなどの慣例に反し、別のカップルの容器も置いた気がした。検証も自分1人で行なったことから、後日、戻した受精卵が別人のものだった可能性が高いと判断したという。10月末に担当医が院長に報告。病院側は11月、女性に経緯を説明して謝罪し、女性は人工中絶した。
担当医は、夫婦から「誰の受精卵か調べられないのか」と尋ねられたが、「信用できる検査機関を知らない」と答えたと説明。夫婦は数日後、中絶することにしたという。
病院は、人工中絶手術で取り出した子宮の内容物のDNA鑑定など、取り違えの最終確認はしなかったという。この方針は女性には相談せず、内科の主任部長ら4人でつくる院内の医療安全管理室で決定し、院長に事後報告した。
担当医はこれまで約1000例を手掛けるベテランで、ミスは今回が初めて。現在も院内で治療を続けている。病院は疑惑発覚後、慣例(▽受精卵入りのシャーレを複数載せる場合、すべて同じカップルのシャーレにする。▽複数のカップルの受精卵を調べる場合、作業台を片付け、何もないことを複数の医師が確認後に新たなシャーレを載せる)を明文化。シャーレの底部に名前入り識別用バーコードを付け、区別し易いように色つきテープを貼ることにした。
《生きるか死ぬかの外科や緊急と異なり、日本の法律では妊娠122日以内の人工中絶でも、取り出されたものは人ではなく産業廃棄物として処理される物体だ。まして命を扱うのではなく、精子、卵子の段階を取り扱う心構えには、失敗しても何度でも繰り返すことのできる余裕がある。他人が医師として許されないことだと言うのは勝手だが、そこに惰性がうまれることは人間としてあり得ないことではない》。
《そしてまた、ここでも明らかになったことだが、同病院が体外受精の治療を開始した93年から約15年間、1人で体外受精を担当していたことが分かった。川田医師は取り違えの原因を「ダブルチェックがなかった」と説明しており、同様のミスがいつでも起こりうる状態だった可能性がでてきた》。
受精卵を取り違える危険性は、以前から指摘されていたという。日本では名前のよく似た女性を取り違えて受精卵を戻した。直後にミスが分かり、妊娠に至らなかった。02年には人工授精を受けた女性に過って夫以外の精液を注入したため、妊娠しない処置がされた。イギリスでは02年、白人夫婦が体外受精で双生児を授かったが、赤ちゃんの1人が黒人で取り違えが発覚した。
取り違え一歩手前の事例はさらに多い。
蔵本ウイメンズクリニック(福岡市博多区)が07〜08年に実施した全国調査によると、回答した不妊治療施設114カ所のうち、患者の取り違えなどを「身近に感じたことがある」と回答した施設は56と約半数を占めた。回答では▽受精卵の取り違え▽精子の名前の誤記入、などの事例があった。取り違え防止や事故発生時のマニュアルについては4分の3を超える87施設が「なし」と答えた。
(中略)国際医療技術研究所(宇都宮市)の荒木重雄の理事長は「体外受精をする病院はここ10年で急増したが、法的な安全基準がなく体制はバラバラ。事故を起しかねない施設は多いのではないか」と安全確保が伴わない実情を指摘する。
荒木理事長によると急増の背景には、医療事故のリスクが高い分娩を取り扱うよりも、体外受精で収入を確保したいという経営事情がある。ただ、受精卵の管理が杜撰な施設も多いという。
04年度の厚生労働省研究班の調査では、全国の不妊治療施設のうち日本産科婦人科学会が「備えることが望ましい」とする設備や人員をすべて備えていたのは2割未満。受精卵を扱う技術者がいない施設も3割弱あった。
国内では10組に1組のカップルが不妊に悩んでいるといわれ、背景として晩婚化や妊娠、出産の高齢化が指摘され、不妊治療が発展してきた。06年に体外受精で生まれた子は1万9587人。国内の出生数の56人に1人に達し日常的な医療行為となっている。また、厚労省は04年度から所得などの条件に合致した夫婦を対象に体外受精などの不妊治療の費用の補助を始めた。1回10万円が年2回、通算5年支給される。04年度1万7657組だった支給対象は、07年度に6万536組へと急増している。
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コメント
ニュースを子細に見ると疑問点もあると言わざるをえない。
間違いだった受精卵。だから中絶を早めに
なんか事務的な作業ですよ
投稿: 川田医師は大丈夫ですか | 2009年2月24日 (火) 14時12分
こわ・・・。信用ならん。
投稿: | 2013年5月30日 (木) 09時21分