野宿者と貧困
〈前置き〉
新聞紙上に、しばらくの間目にしなかった活字が目に飛び込んできた。角ゴシックで大きく「野宿者」とある。横文字好きの日本人がここしばらくホームレスと呼び代えてきたものだ。しかし、野宿(野を宿にする)とホームレス(家がない、家庭がない)は違うのではないか。ホームレスは日本語にすれば宿無しが似つかわしい、無宿者だ。
いずれにしても、それまで普通に使われてきた浮浪者という語は差別的であるとして、放送禁止用語に指定されてからはホームレスがあてられるようになり、最近はタイトルのように野宿者、野宿生活者などと使われ方も変わってきたようだ。
しかし、「浮浪者」が差別的な言葉であるならば、「野宿者」はそれよりも一層差別的に聞こえるのだがそれでいいのだろうか。口にしてみればいい、「のじゅくもの」と。その昔日常的に使われていた「乞食(こじき)」や「ルンペン」の類いと同列の言葉だ。
【閑話休題】
毎日新聞(1/5)から、 《 》内は私見
少年たちによる野宿者襲撃がなくならない。事件を防ぐため、学校現場に何ができるのか。広がる貧困や雇用の現実をどう教えればいいのか。教職員や支援者による授業づくりの全国ネットが発足し、取り組みが広がり始めた。
「今日は椅子取りゲームをやります」。杉浦真理教諭(45)のかけ声で、生徒たちが教室の中央に椅子を集めた。
京都府宇治市の立命館宇治中学校・高等学校。昨年12月、高校2年の政治・経済でワークショップ形式の授業があった。生徒たちは既に毎日新聞くらいナビ面の連載「働けど、′08蟹工船」を読み、格差について学んだ。何が始まるか察した子も多いようだ。
まずは男女各10人が並べられた椅子の周りに立つ。椅子は14個だが、半分に「男性専用」の張り紙がある。教諭が音楽を流し、ストップ。男子は全員座れ、女子6人が脱落した。「ずるいよこのゲーム」「女性専用はないの?」。女子からブーイングが上がる。
教諭「この椅子は今の社会の、何だろう?」
男子生徒「男性だけ募集するのは法律違反だよね。でも現実がこうなのはなぜ?」
女性生徒「面接で決まるから・・かな」
「次は一見公平なゲームをするよ」。教諭が「男性専用」の紙を剥がした。生徒22人で椅子は17個。教諭が就職した21年前の就職状況を反映した数だ。初戦で5人があぶれ、「悔しい」と苦笑い。2回戦。教諭は「これを07年バージョンにします」と、さらに7個椅子を減らす。「えー。少な!」と驚く女子に「まあこんなもんやろ」と男子。
消えた椅子はどこへ行ったのか。「派遣社員のところ」「会社が危ないからリストラされた」「外国人が取った?」いろんな疑問が出たところで、授業は講義へ。
《記事は女性レポーターの手になるものだが、今時の女性だ。椅子の数え方の「脚」も知らない。「個」でもいいと思っているのだろうが、年令の数え方さえ「個」で表して「一個上(いっこうえ)下(した)を平気で口にすることに慣れているのだろう。》
《この新聞社、300日問題では法律を守らず不倫の子を産んだ母親の子どもが可哀そうだけで民法改正を求める論法を展開する。或いは奨学金を返済しない卒業生を責めないで、返済の督促をしない側を責める。問題の本質を捉えられないままで論陣を張ろうとする。冒頭でいう襲撃事件をなくすために、なぜ男女差別や男女雇用機会均等法から入らねばならないのか。確かに昨年末の非正規社員らリストラの問題は大きなテーマではあるが、浮浪者の襲撃問題とは根源を別にする問題だ。》
経済界の要請で派遣労働の規制緩和が進み、人件費削減で椅子取りゲームが厳しくなった。その結果、野宿になる人が増えて行く。では、住所も蓄えもなくした人が一気に野宿を抜け出せるのか。生徒たちと問答を重ねる。
杉浦教諭は前任校で福祉を担当し、「障害者や高齢者福祉は教えても、野宿者問題は抜け落ちている」と感じた。でも、どう教えれば良いのか。悩んでいた時、大阪で野宿問題の授業づくりに取り組む支援団体「野宿者ネットワーク」の生田武志(44)を知り、昨年度から授業を始めた。この日のゲームは生田の教材をアレンジした。
どうすれば椅子を増やせるのか。授業の最後、生徒たちからこんな案が出た。「新しい公共事業」「政策で企業に採用人数の枠を決める」「派遣社員を正社員にする」「2人で座る」
次の授業では、九つの野宿者対策を挙げ、重要度をランク付けしてもらった。生徒たちが1位に選んだのは「住居」ではなく「仕事」。教諭は「彼らの中にまだ『野宿者イコール働かない人』という意識が強いことの表れ」と感じた。「来年度は人権にどう踏み込むかが課題です」と話す。
また、大阪府立三島高の松井教諭(45)は3年生の政治・経済で、今の不況に踏み込む授業に挑戦した。
松井教諭は6年前、前任校で貧困層の生徒たちと関わった。高卒の就職状況は悪く、地域では襲撃も起きていた。そこで生徒たちに安いアルミ缶集めで苦労する野宿者のドキュメンタリー番組を見せた。ある生徒が「働くことの大切さを教えられた」と言ったことが記憶に残るという。
今年度は生田教諭の教材をもとに、サブプライム問題など世界の出来事と日本の貧困の結びつきを講義した。日々のニュースが自分たちともかかわり、ネットカフェ難民や野宿者の問題も身近なことと感じてもらうためだ。
計6時間の授業を終えた生徒たちに感想を聞いた。ある男子生徒は「こういう時代で自分もホームレスになるかもしれない。大人になったら株で儲けようと思っていたのに、怖くなった」。女子生徒は「ホームレスって自業自得と思っていたけれど、社会にも原因があるんやなあ」。
格差解消のために自分に何ができるのかという質問には「ちゃんと税金を収める」(男子生徒)、「多分何もできない」(同)、「取り敢えず、自分は関係ないとは思わない」(同)、「ボランティア活動で貧困者を助けたい」(女子生徒)などの答えが返ってきた。
「貧困を対等なまなざしで見られる人になってほしい」。松井教諭から生徒たちへのメッセージだ。
《浮浪者の襲撃、殺人は、人間の尊厳、命の尊さの問題で、倫理、道徳面からの解決の道を探らない限り、リストラされたことへの同情や格差社会の矛盾として取り上げたところで解決出できるものではない。》 –– つづく
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