« 中国の「IT機密開示」に見直しを要求 | トップページ | 「学校選択制」見直し »

2008年9月25日 (木)

世界遺産「石見銀山」へ押し寄せる観光客

熱しやすく冷めやすい、付和雷同の国民性は日本人の特徴だ。2004年7月1日に世界遺産に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」。登録前後増え続けていた観光客も、04年こそ15万人を突破し、蟻のような行列で古道に向かったが、翌年には早くも14万人半ばに落ち込んだ。観光客の増加に伴い、ゴミの放棄や散乱、木への落書き、損壊など環境破壊が問題となった経緯もあった。

今、昨年7月、日本初の産業遺跡として世界文化遺産に登録された石見銀山遺跡(島根県太田市)では、観光客の増加で、同じく環境破壊という問題が浮上している。

石見銀山遺跡を構成する要素は大きく三つ。銀鉱山跡、町並み、街道と港だ。市内3町に点在するそれらの総面積は約442ヘクタールになる。中でも、銀採掘坑道や江戸時代の区割りを伝える町並みが残る大森町には観光客が押し寄せる。旅行代理店のツアーもここに集中しているという。世界遺産に登録された07年の観光客数は前年の2倍近い71・4万人。今年は8月末で56万人に迫り、前年同月比1・7倍と衰える気配がない。

大森の町並み地区は、170世帯390人が暮らす「生活の場」でもある。観光車輌の流入を防ぐため、市は昨年4月末、石見交通(本社・益田市)に要請して「パークアンドライド*」を始めた。同地区の2・5キロ南に新設した無料駐車場(乗用車400台、観光バス11台)に車を置き、同社の路線バスに乗り換えて町へ入ってもらう仕組みだ。

 *「パークアンドライド」-- 駅や停留所など、ターミナル近辺の駐車が可能な地点まで行って車を置き、そこから電車やバスに乗り継いで目的地へ向かうこと。都心部など交通量の多い地域の自治体が交通渋滞対策や環境対策の一環として推進している。

一方、銀鉱山の麓にある一番人気の「龍源寺間歩」(坑道)へも一般車輌は乗り入れ禁止とし町並み地区から路線バス(43人乗り)を使ってもらうことになった。従来は9往復だったダイヤを平日18往復、土日祝日は35往復と大幅に増便した。普通車でもすれ違うのがやっとの市道で、住民も観光客も追い越していくバスの排気ガスを浴び、顔をしかめることが起こった。

秋の行楽シーズンには観光客が殺到。「平日は混雑、土日は混乱」(自治会役員)という状態になったという。町並み地区から坑道へは徒歩でも30分程度だが、観光客の多くはバスを利用する。「何台待ってもバスに乗れない」という苦情に応えて臨時便を増やしたため、多い日には平日でも100台近くがピストン運行をした。

いつも満員のバスにはその地区で生活する住民も乗れない。「もはや路線バスじゃない。観光バスだ」の声も上がり、加えて排ガス、騒音、振動が問題となった。住民が最後には悲鳴を上げるまで時間はかからなかった。町民たちは集会を重ねた末、大森町自治会協議会は昨年12月、路線バスの廃止を大田市に陳情した。

その一週間後、坑道の手前のバス道に面した斜面から全長110センチ、幅50センチ、重さ約80キロの岩が落ちる落石事故が発生した。深夜の発生でけが人はなかったが、陳情書が指摘した「バスの振動による落石」が現実になった。市は現場付近を通行止めとし、路線バスは手前の停留所で折り返すことになった。調査の結果、落石防止の工事に約2年かかることも判明した。これが路線バス廃止へ向けた動きを後押しした。

市と石見交通は来月1日から、坑道と町並みを往復していた路線バスを全廃する決定をした。決定まで賛否両論あったが、ある住民は集会でこう言い切った。「バスを廃止すれば、観光客が減ったり障害者に迷惑をかける。でも住民は死ぬまでそこに住み続ける。不安を抱きながら過ごすことはできません」と。

登録から2度目の秋を迎えた石見銀山は「歩く観光」に舵を切る。来年度からは、パークアンドライド路線にモーターとエンジンを併用する「ハイブリッドバス」2台を導入する計画もある。一方、排ガスを出さない電気バス導入計画も進んでいる。廃止路線のバス代わりではなく、歩行者優先の遺跡内を時速5キロ程度の歩く速さで遊覧する乗り物だ。遺跡内では21日から「究極のエコカー」も登場した。大人2人と幼児1人が乗れる有料ベロタクシー(電動アシスト付き三輪自転車)3台で、運転手が観光ガイドも務める。

山陰の片隅の小さな町が全国に発信する「環境と共生する世界遺産」への決意は、世界遺産登録後に大森町が定めた「住民憲章」にも表れいる。「この町には暮らしがあります。私たちはこの町で暮らしながら、人とのきずあと石見銀山を未来に引き継ぎます。未来に向かって歴史と遺跡、そして自然を守ります」とある。

都市計画などが専門の西村幸夫・東京大教授は、岐阜県の白川郷が95年の世界遺産登録後、観光客の急増で合掌造り集落の水田を駐車場に変えた例をひき、「石見銀山は各地のいいところを学び、悪いところはうまく避け、日本中から学びに来る場所になってほしい」と期待を寄せている。

《それ(水田)も含まれた世界遺産、潰してどうなるのか、私の長男が数年前、白川郷を訪ねて帰った時、余りの観光地化された姿に愕然とした、と言ったのが強く印象に残ったのを思い出した。》

|

« 中国の「IT機密開示」に見直しを要求 | トップページ | 「学校選択制」見直し »

コメント

 建築都市デザインについて学習する学科を受験する高校三年生の者です。
 今、私はどうすれば景観の保存と観光、開発とがうまく調和されていくのかを探っているのですが、このページから多くのことを学び取らせていただきました。ありがとうございます。
 また、何かヒントになることを教えていただければ有難いと思っています。

投稿: Tomoki | 2011年3月 3日 (木) 23時25分

 建築都市デザインについて学習する学科を受験する高校三年生の者です。
 今、私はどうすれば景観の保存と観光、開発とがうまく調和されていくのかを探っているのですが、このページから多くのことを学び取らせていただきました。ありがとうございます。
 また、何かヒントになることを教えていただければ有難いと思っています。

投稿: Tomoki | 2011年3月 3日 (木) 23時25分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/107998/42590232

この記事へのトラックバック一覧です: 世界遺産「石見銀山」へ押し寄せる観光客:

» 自宅でできるヘアエステ [自宅でできるヘアエステ]
大げさではないけれど、少しずつでも傷みきった髪のキューティクルを取り戻そう! [続きを読む]

受信: 2008年9月26日 (金) 16時48分

« 中国の「IT機密開示」に見直しを要求 | トップページ | 「学校選択制」見直し »