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2008年8月 7日 (木)

クイズ番組から

2、3日前、ある民放のクイズ番組で次のような質問が出た。『重油を輸入するタンカーは、満載にしたとき安定するように設計されている。では貿易相手国まで船が転覆しないように安定して航行するために、何かを満載して行かなければならないが、さて、何を積むのでしょうか?』というものだ。答えは比較的分りやすい、同じ水物で「海水」でいい。番組中では紹介しなかったが、通常これは「バラスト」と呼ばれている。

毎日新聞(7/28)から 《》内は私見
バラスト水は、タンカーなどの船舶を安定させるために出港時に積み、相手国の港やその沖合いで荷物と引き換えに捨てられる。世界中の年間移動量は100億トンとの推定もあり、特に資源輸入国の日本は大量のバラスト水輸出国として問題視されている。一体何が問題視されるのか。

バラスト水が移動し、貿易相手国の生態系を遺伝子レベルで撹乱する実態が徐々に分かってきた。生態系保護のため、バラスト水処理を義務づける国際的な規制が来年から始る予定だったが、処理装置の開発の遅れなどで開始敷はずれ込む見通しとなっている。

「予想より海の生態系が乱されていた」ことが分かったのだ。バラスト水が生態系に与える影響を研究している神戸大内海域環境教育研究センターの川井浩史教授(海洋生物学)は、自身の調査結果をみてそう話す。

出港地の生物が運ばれ、相手国の生態系を乱す恐れがあるからだ。これまで欧州の貝が米国・五大湖で大繁殖した例や、南米でのコレラ大流行が、バラスト水の移動と関連すると指摘されている。

バラスト水の影響を明らかにするために、川井教授らは、日本の貿易相手国で採集したワカメ・アオサ・アオノリ類、シオミドロ類の海藻などの遺伝子を調べ、実際に生物が他国に移動しているかどうか調べた。その結果、米カリフォルニアやメキシコ、豪州タスマニアで採取したワカメは、比較的最近、本州から運ばれた可能性が高かった。ニュージーランドの北島と南島では遺伝子のタイプが異なり、南島では韓国・中国タイプと北日本タイプの遺伝子が交雑していることも分かった。

一方、三河湾や大阪湾の海域によっては、アオサ・アオノリ類で、国内でこれまで確認されなかった種類が優勢となっていることも判明した。

川井教授らは、微生物調査によりバラスト水タンクで生物が移動できる場合があることも確認した。「世界の貿易は活発になる一方だ。早急に手を打たないと、生態系にとって手遅れになってしまう」と指摘する。

バラスト水の被害を防ぐため国際海事機関(IMO)が04年に採択したのが、バラスト水管理条約だ。09年から一部の新造船で、17年からすべての国際船舶で、処理装置の設置を義務づけている。

         バラスト水の処理基準
          基 準      備考
動物プランクトン 1㎥に10    外洋の100分の1程度
植物プランクトン 1㎖に10       同上
コレラ菌     100㎖に1    海水浴場並み
大腸菌      100㎖に250     同上
腸球菌      100㎖に100     同上

ところが現在、条約の発効も見通しが立っていない状態だ。「30カ国が批准し、それらの合計商船積載量が世界の35%以上」が発効の要件だが、4月までの批准国はスペイン、ノルウェーなど14カ国、積載量3・55%に過ぎないためだ。

批准が進まない最大の理由は、処理技術の開発の遅れといわる。日本政府も「処理装置が市場に供給できない状態では、批准できない」との立場だ。出航直後に薬剤や濾過で処理したとしても、長い航海の間に細菌類が最増殖する危険性がある。船の中を無菌状態にはできないからだ。逆に貿易相手港で処理すれば物流に影響する。バラスト水の処理には時間がかかるため、港湾で待機する時間が長くなるためだ。

東京大学の福代康夫・アジア生物資源環境研究センター教授は「素早く処理するために強い薬剤を使えば、それだけで周囲の環境に影響がでる。海水に含まれる生物が相手なので、一筋縄ではいかない」と技術開発の難しさを説明する。

それでも、課題を克服した処理装置が開発されつつある。
 日立プラントテクノロジーと三菱工は4月、プランクトンや菌類を薬剤で凝集し、さらに磁気分離技術を組み合わせて処理する装置を開発、IMOから基本承認された。今後、船上試験などを経て、来年中にはIMOと国からそれぞれ製品化前の最終的な承認を得られる見通しだ。

このほか、三井造船と日本海難防止協会などのグループが別方式で基本承認を取得している。海外では独やノルウェーが既にIMOの最終承認を得た装置を開発している。

日立プラント社によると、バラスト水処理装置は今後、世界で1兆〜2兆円規模の市場が見込めるといい、担当者は「各国、各メーカー間の競争が激しくなるだろう」と話す。

《海水がそれほどの問題を抱えていることなど考えてもみなかった。それにしても、難しい装置の開発だが、早速金になる市場、と皮算用する企業も抜け目がない。》

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