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2008年4月 3日 (木)

謝罪

毎日新聞(3/27)から
岡山市のJR岡山駅で25日起きた突き落とし殺人事件で、容疑者の大阪府大東市に住む少年(18)の父親(57)が26日、岡山市内(丸の内の市民会館)で記者会見した。「事件前は変った様子はなかった。被害者の方に申し訳ない。息子が許せない。他人に迷惑をかけるくらいなら、自分を傷つけてくれれば良かった」と涙を流しながら謝罪した。として記者たちの前で深々と頭を垂れる父親の姿の写真を掲載した。

《近ごろ加害者の親が記者たちの前に出て、しっかりと謝罪の姿を見せることは少なく、珍しいことだった。大方の親は家に閉じこもり、訊ねる記者の質問にまともに応えることもせず、玄関まで出ることはあってもガラス越しの応答をする程度だった。手ぶらで帰るわけにもいかない記者の質問に、親に代わって精々どこにでもいる近所のおしゃべりが、‘良い子でしたよ’‘普通の子ですよ’‘信じられない’と言葉を聞き出すのがいいところだった。

保護監督下にある子どもの罪の責任を、親が世間に詫びるのは当然だが、あまりに哀れで悲しい姿だ。だが掲載されている写真を見て、昭和一桁には納得のいかない違和感があった。平成に生きる人たちにはどのように映るのか分からないが、この父親の手は後ろ手に組まれているままだ。記者たちは何も感じなかったのだろうか。私たちの世代には後ろ手は相手を見下す傲岸不遜の態度なのだ。人さまに詫びる際は、両手は前にして組まず、深く頭を下げれば手は膝頭まで届く、これがマナーだった。折角息子に代わって世間に顔をだしたのは良いが、これでは謝意は半減する。古臭い老人世代だけのことだろうか。(ついでに言えば、女性アナウンサーたちが手を下半身近くで組み、ひじを張ってする御辞儀は、常々見ていて少しも見栄えの良いものではない。)》

父親によると、少年は父、母(56)と3人暮らし。会社員の兄(33)は独立しているという。「小学校、中学校といじめられてきた。犬も怖がる弱虫だった。中学卒業後、一度だけ『復讐したい』と話したが、『そんなことをするな』と言ったら納得した」という。24日夜、食事中に茨城県土浦市の8人殺傷事件を報じるニュース番組を見ながら、「こんなことをすなよ」と話し掛けると「うん」と答えたという。

《少年は中学1年の時に4〜5人にいじめられたことがあり、保護者同士で解決したこともあった。親は決して少年を放任していたわけではない。学校やいじめる側の親との話し合いも行ない、どちらかといえば、今では珍しく普通以上に子どもへの気配りは届いていたと見て良い。》

少年は家庭の経済的な事情で大学進学を諦めたが、学校では成績も良く、卒業式に出席した際も特に変ったところはなかったという。「自分でお金をためて、国立大に生きたい」と父に打ち明け、大阪市内のハローワークに通って事務系の仕事を探していた。犯行当日の25日朝は、テレビゲームをするなど普段と変った様子はなかった。

しかし、夜になっても帰宅せず「友だちも少なく、必ず持っている携帯電話を家に置いて行った」ことを不審に思った父た、大阪府警四条畷署に捜索願いを提出。26日朝のニュースで事件を知り、「自分の息子かもしれない」と思い、岡山西署に連絡したという。父親は「社会人としてしっかり責任を取れ、と言いたい。私も『何でだ』という思いだ」と話し、最後まで頭を下げ続けた。

《息子が置いて行った携帯電話を見つけ、即座に異常を察知するほど父親は息子の日常に心を配ってもいたようだ。すぐに警察に連絡を取り、手配した。けっして家庭内での親子の会話がなかったようにはみえない。なのになぜ、「殺すのは誰でもよかった」と言わせるまでに少年の心は自暴自棄に荒んだのだろうか。格差社会を言い、そこから来る閉塞感や孤独を言うのは易しい。インターネットや携帯電話、どれも目と目で結ぶコミュニケーションがない。コンピューターの開発は、人間関係の希薄をロボットからの癒しを求めようとの動きさえ見えるが、間違っている。暖かい人間関係を育むには人間同士のつながり以外にはないはずだ。私などはロボットの猫や犬が近づけば、或いはピアノやヴァイオリンを弾くロボットが近づけば、癇に触れ、恐らく蹴飛ばし、たたき壊すだろう。

平常家庭の団欒を説いてきているが、少なくとも父と子にはあった会話が、家族としてどこまで分かりあえる関係を作り上げていたのか、我々にはこれから先を待たねば見えてこない。ただ、父親が社会の目に見える場に顔を出して謝ったことだけは評価していいだろう。》

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