哀れなるもの その名は「男」
毎日新聞(4/9)から
特集ワイド『定年後 暇持て余し 妻に付きまとい「ワシも族」予防』なる記事がある。
イラストが、テレビの前に寝そべっていた男が、妻の出かける姿を見て、「おー、ワシもいくぞ」と声を掛けられた妻の顔が迷惑気に苦渋で歪んでいる。友だちとの飲食い(イラストではそのように描かれている)の邪魔をされたからだ。
夫の発した「ワシも行くぞ」が『ワシも族』と呼ばれるものらしい。これも聞いてみないと理解できない「ケー・ワイ」言葉からの拝借なのだろう。
4月は始まりの季節。定年退職した夫とその妻も、新たな人生のスタートだ。でも、もしも夫が「恐怖のワシも族」になってしまったらどうする? ワシも対策を、大阪大大学院医学系研究科保健学準教授、石蔵文信に聞いた。
(要約)《内は私見》
石蔵の専門は循環器内科。男性患者の性機能の研究をきっかけに、一般病院で男性更年期外来を手掛けるようになった、異色の医師といわれている。
「ワシも族って、僕が考えたんじゃないよ。どこかで見聞きしたのをパクって、講議なんかで使っている。『亭主元気で留守がいい』『ぬれ落ち葉』ほど知られていないから、受けがいい。でも、女性が使ったら差別的かな? 男性は苦笑い、女性は大笑いですよ」とおっしゃる。
ワシも族は、妻がどこに行くにも「ワシも」と付きまとうことからこの名がついたらしい。
《幸いにして、私はこのような言葉があることを知らなかった。それに55歳まで、61歳までと2度の会社勤めを終えてから、もう15年以上になるが、私は「ワシも行く」は口にしたことがない。若い頃からの計画を一つ、一つ果していく歓びを抱えていたからだ。敗戦後学んだ西洋史、そこにあったパルテノンの写真、必ず自分の足でその地に立つことを夢見て、がむしゃらに働き続けた。50歳になった時、現地で困らないように現代ギリシャ語を学ぶために語学学校に通った。現在のように大学を卒業したからとて、お遊びで海外に行くことを考えられるほど親たちは子どもを甘やかす世の中ではなかった。
また、イラストにあるように、夫の働いている間に暇を持て余して友だちやご近所と飲み食いするような妻はいなかった。いまでこそ月の残業100時間が問題視されているが、昭和一桁の労働者たちには100時間残業など当たり前のことだった。前にも書いたが、それでも私は、定年退職するまで残業代など貰ったことがない。それほど私たちの世代は戦後の復興に汗を流した。
我が家では結婚以来「ワシも行く」は逆に妻の「ワタシも行く」が殆どだ。ブログに載せている海外旅行にはユングフラウ以外はすべて妻同伴だ。海外旅行が1段落した現在、お互いに若い頃「歩け、歩け」運動で鍛えられた健脚も、多少の衰えがきて、妻は2、3年前までは1人で登っていた高尾山にも去年は行かなかったようで、買い物にも、「ワタシも行く」は「ワタシを連れていって」が多くなった》。
石蔵が出会ったワシも族は、例えば、妻が外から帰ると、真っ暗な部屋で黙って座ったまま。電気さえつけず、お茶も飲まない。中にはカップ麺を作れなかったり、コンビニに買い物にも行けなかったりするケースもあるという。
《今時の妻は友人とのお茶や、外出で家を留守にする時、食事の支度はしてやらないのか。どんなに簡単なものでもいいじゃないか、何か一こと言ってやれば、前の日から分かっていることなら、「ああしてね、こうしてね」を言って置けば獄房のような思いをさせないでも済むことだろう。我が家ではお互いに出かける時には凡その帰宅時間は知らせるし、妻は食事の準備くらいはしてから出かける。私の若い頃は、アルバイトをしないで大学に通えるのは余ほど恵まれた家庭の子弟だった。そのため、毎日の食事は自分で拵えていた。今のように外食産業などなかった。大抵の料理は自分でできる。妻の寝込んだ時にはお粥や簡単な惣菜くらいは作って食べさせる。常々男が調理場に入ることを嫌う世代だ。初めて作って食べさせた時には驚きと感謝、感謝だった。》
そうは言っても、日ごろから行動を監視されては。心も身体も自由がきかない。やがて夫の顔を見て吐き気を催し、声や足音だけで動悸、耳鳴りが起きる妻も出てくる。「妻の夫在宅症候群」と呼ばれる現象だ。「元来、ストレスには強いはずの女性をまいらせるワシも族は、よっぽどのストレス源です」それには「夫が妻を下に見ているからです。会社での上下関係を、そのまま家に持ち込んだようなもの。たまの休日だけでなく、定年後はそれが毎日だから、妻もたまりませんよ」(中略)だが、長年会社に忠誠を誓ってきた企業戦士が、退職した途端にワシも族の烙印を押されるのも、不憫ではないか。
「団塊の世代は、高度成長のイケイケドンドンのころ、働け、働けと社会から押し込まれた。『土日は休みます』なんて言おうものなら『何考えてんねん』で終わりだった。とはいえ、みんながワシも族にはならない。個人の資質も大きいですよ」という。
石蔵氏の監修による「ワシも族」度チェック表がある。
□近所で人当たりがよいが、家では無口だ
□夫が家事をするのは「手伝い」だと思う
□妻の予定や行動をよくチェックしている
□妻にはつい、つらく当ってしまう
□妻の家事に、手は出さないけど口は出す
□妻のお出かけにはよくついていく
□妻子を養ってきたとの自負がある
チェック数
3個以下=とりあえずは大丈夫?
4〜5個=ワシも族の素質、十分です
6個以上=要注意! 見捨てられるかも
《ご近所とのおつき合いなど妻に任せっきりの仕事人間がご近所と付き合えないのは当然のこと。たまの休日は骨休めで子どもと遊んでやることもできなかった。ご近所の顔さえ知らないできた数十年ということだってある。その中を取り持ってやるのが妻の役目ではないのだろうか。そういうわけで、上の7項目の最初の問いは、私はご近所にも人見知りしているし、我が家でも口数は決して多くない。》
石蔵は言う、世の奥様方がこれ以上苦しまないために、ワシも族が妻に捨てられないためには、どうしたらよいのか。「方法は二つ。一つは夫が自立する、もう一つは妻よりも早く旅立つことです。寿命を気にせず、好きなものをいくらでも飲み食いすればいい」と冗談めかして言う。
《定年退職した夫がしがらみから解放されるのは、寿命が終わる時なのか。平成19年、日本人の平均寿命は男性79・00歳、女性85・81歳。放っておいても同年齢夫婦の場合、女性は慌てて別れることはない、生涯の最後は7年間近く、1人になることができる。07年、厚生年金の分割制度がスタートした。さぞかし離婚が増えるかと思いきや、差ほどお得でないことがはっきりすると、鳴りを潜(ひそ)めた。その程度のことなんだ。世の奥様方はそれほど苦しんではいない。厚生年金と旦那を天秤に掛けていただけなんだ。「愛情の有る無しで別れるなら、とっくの昔に別れていますよ」とは妻の側だけの内心ではないだろう。悪いイメージは雪だるまのように膨らんでいく。》
「夫婦は空気みたいな間柄がいい。いても気にならない、という意味で。長年連れ添った夫婦が、ワシも族と呼んだり呼ばれたり。そんな遣る瀬ない関係はできればご免こうむりたい。家庭には会社と違って、定年などないのだから」と結んでいる。
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