マグロと鯨と食料危機
毎日新聞(12/18〜22)から
♦フィリピン最大のマグロ水揚げ漁港として知られるミンダナ島ジェネラルサントス市の近海で近年、日本向け刺身のマグロの漁獲高が減少を続けている、という。かつての乱獲が原因とみられる。日本への輸出を手掛けてきた食品加工業者らは、刺身に不向きな遠洋マグロを使った加工食品作りに活路を見い出そうとしている。
日本の会社を定年退職し90年代初めに同漁港を訪れた山岡金光さん(78)は、目の前の海で跳びはねる100キロ級のマグロを見て驚いた。彼はそのままジェネラルサントスに落ち着き、マグロを日本へ直送する仕事を始めたらしい。
《われ先に、儲けを一人占めできる思いにわくわくしながら無計画にマグロを捕りまくったろう。捕れるだけ捕ろう、邪魔者が来る前に、だ。当然の結果が起きる。》
しかし、わずか4、5年後に、近海のマグロの漁獲は激減する。「ここで捕れるキハダマグロは200キロまで成長する。十分に大きくなる前のマグロまで捕り尽くしたことが原因だろう」と山岡は分析する。
《漁獲量の制限、サイズの制限などお構いなしに乱獲させておいて、何を寝ぼけたことを言うのだろう。だからだ、日本人のこういうところが嫌われるのだ。次に書く鯨にしても同じだが(鯨は日本以上にイギリス、アメリカ、ノルウェーなどが先陣切って絶滅に近い状況に追い込んだのだが)、少なくなった残りものを、とことん資源の枯渇が危ぶまれるまでかっ攫って捕るのが日本の近年までのやり方だったのだろうに。》
フィリピン漁業開発公社ジェネラルサントス漁港長のミゲル・ランベルテさん(51)によると、フィリピン政府は近海マグロの禁漁区を設けるなど資源保護対策を強化する。水揚げ量の20%以上を占めていた近海物の日本向け高級マグロの割合は10%程度まで減少した。
このため、漁船は大型化し、インドネシアや赤道以南まで出かけるようになった。しかし、冷凍保存技術が不十分なため、遠洋から水揚げされるマグロは鮮度を保つことが出来ず、刺身用として日本へ出荷できない。
刺身用の近海マグロの減少分を補うため、ミンダナオ島最大の街ダバオ市で食品加工工場を設立した中尾純啓さん(63)は、遠洋マグロを使った冷凍のつみれやマグロハムの開発に取り組んでいる。「刺身になるマグロは全体の15%程度。皮や血合いは廃棄されている。マグロ資源の有効活用のためにもフィリピン産マグロを使った日本向けの加工食品作りに取り組みたい」と語り、フィリピン産マグロが再び、日本の食卓を彩る日々を期待している。
《彼も、日本人の一旗挙げたい組だ。何もフィリピンのマグロだけがマグロじゃないが、日本人のマグロ好きは異常だ。それに回転寿司が拍車を掛けた。家で料理をすることが少なくなったことも重なって、贅沢にも子供達の口にまでマグロが運ばれることになった。子供達は一時魚離れをしていたはずだったのに、高級魚のレッテルに惹かれる親たちのせいで、トロだ大トロだの、生意気を言うところまできた。子どもたちには栄養や滋養面では鰯や秋刀魚こそ食するには適した魚なのに。》
また、世界的な日本食ブームは、生魚を食べなかった国の人たちまでが食べ始め、ますます乱獲に輪をかけることになったようだ。一方では、この先ますます厳しさを増す漁獲制限を受けて、マグロがなければ食べないだけで済ます生活に慣れるより仕方なくなるだろう。》
♦しばらく前からオーストラリアの軍艦が出航か、などと、きな臭い話題になっていた日本の調査捕鯨問題。オーストラリアのスミス外相とギャレット環境相は19日、南極海で捕鯨活動を行なう日本鯨類研究所(東京都中央区、森本稔理事長)の船団を監視するため、オーストラリア税関の巡視船を数日以内に派遣すると発表した。
派遣は将来の国際海洋法裁判所への提訴など法的手段に備えた証拠集めが目的だ。世界で唯一「調査捕鯨」を行なっている日本は厳しい対応を迫られることになった。外相は「科学調査に名を借りたクジラの殺戮をやめるよう、日本を説得したい」と語った。航空機による空からの監視活動も同時に実施する、ということだ。
《マグロと違って鯨は相手が大きすぎる。通常の魚の漁獲高で表せるものではない。そこで鯨が動物であることで、反捕鯨国は『殺戮』という言葉で収穫を表現する。では、牛や豚や鶏は殺戮ではないのだろうか。鯨1頭には命は1つ、牛や豚やカンガルーも1頭に命は1つだ。何か違いがあるのだろうか。来る日も来る日も殺戮を繰り返されて牧場から人間の胃袋に送り込まれる多くの牛や豚の命は一体なんだろう。鯨の1つの命と牛や豚の何千、何万の命との殺戮を比べれば、どちらが大虐殺と名付けられるのが相応しいのだろうか。一方は生きてあるものを殺す、一方は殺すためにつくり、育てては後に殺す。どちらが残酷なのだろう。命ってなんだろう。》
日本政府は21日、南極海の調査捕鯨で今年度初めて行なう予定だったザトウクジラ50頭の捕獲を取り止めると発表した。オーストラリアなど反捕鯨国が反発しており、強行すれば商業捕鯨再開を目指す日本にとってマイナスになると判断した。日豪関係にも配慮したとみられる。
--- つづく ---
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