アメリカとはこんな国
6日の各紙がグエン・ベトさん(26)の死去を報じた。
1981年、ベトナム中部ザライ省で弟のドクさんと下半身がつながった状態で生まれた。同省はベトナム戦争中(1960〜1975年)、アメリカ軍が枯れ葉剤*を大量に散布した場所で、2人は戦争の悲惨さの象徴として世界的に知られた。86年にはベトさんが急性脳症を発症し、特別機で日本に運ばれて治療を受けた。ベトナムに戻った2人は88年にホーチミンのツーズー病院で日本の医師も協力して分離手術が行なわれた。ベトさんはその後、同病院で寝たきりの生活を送っていた。
ドクさんは分離手術のあと、成人してからは同病院職員として働く一方、枯れ葉剤*の被害を世界に訴える活動を続けている。
*枯れ葉剤 - ベトナム戦争中にアメリカ軍によって撒かれた枯れ葉剤は軍の委託によりダイヤモンドジャムロック、ダウ、ハーキュリーズ、モンサント社などにより製造された。不純物として催奇性があるとされ、ダイオキシン類等を含む除草剤の一種で、主に綿の栽培で飛行機により空中から撒布して使用していた。
アメリカ政府は枯れ葉剤と奇形児出生の因果関係は認めておらず、戦後補償も行なっていない。一方、ベトナム側の説明によると、国内には約400万人の枯れ葉剤被害者がおり、結合双生児や脳性麻痺の子どもたちが今も生まれているという。
枯れ葉剤だけではない。ベトナム戦争では敵の陣地攻撃やジャングルに潜む敵兵を殲滅するために、アメリカ軍はナパーム弾**を開発し、投下した。極めて高温(900〜1300度)で燃焼し、広範囲を焼き尽くし、破壊する。
**ナパーム弾 - 主燃焼材のナフサにナパーム剤(パーム油から抽出したパルミチン酸のアルミニウム塩、乳化剤としてのナフテン酸などを混合)と呼ばれる増粘剤を添加してゼリー状にしたものを充填した油脂焼夷弾である。これに信管をつけて空中から投下、また、火炎放射器の噴射剤としても用いられた。
遺伝子組み換え作物の栽培で使われている除草剤のラウンドアップは、ベトナムで使われた除草剤を製造していたモンサント社が開発したものだ。遺伝子操作でラウンドアップに耐性を有する作物(ダイズ、トウモロコシ、ナタネ、ワタ)は、生育中にラウンドアップを散布しても枯れないで、すべての雑草を除去しながら栽培される。また、アメリカは麻薬作物の除去を名目に、コロンビアやアフガニスタンなどでこれを空中撒布する作戦を展開し、対象地区の農業や環境に被害を与えているのだ。
にも拘らず、アメリカは、ノルウェーなど有志国が禁止する条約を08年中に作ることを目指している「オスロ・プロセス」を嘲笑うかのように、新型のクラスター爆弾を開発し、配備に向けて動きだしたのだ。北朝鮮をテロ支援国家といえる立場ではないだろう。他国へまで侵攻し、自身がテロ行為とおぼしき戦争を仕掛け、戦火を広げているのはまさしくアメリカ自身だ。今回のクラスター爆弾は、従来の不発率の高かった爆弾に比べ、電池で自爆装置を作動させる技術が導入され、不発率は低いという。全面禁止を求める動きがある中で、あえて実戦配備するだけに、反発を招くのは必至とみられる。
不発率は低いのであって、ゼロではない、必ず投下されれば今までと同じ、爆発するとは限らない不発弾が混じるのだ。1発2発の不発の問題ではない。落とすとなれば数え切れない数を投下するアメリカ軍だ、その子爆弾の数は考えるだけでも恐ろしい数量になる。
新型のものは対人・軽装車攻撃用で、42個の子爆弾(M80型)が搭載されている。1800発製造され、米国防省筋によると、今秋にも900発(子爆弾3万7800個)が実戦配備される見通しだという。イラクやアフガニスタンへの配備が検討されている。20年以上使わずに倉庫に保管しても、電池などが劣化せず品質を維持できるという。約20年前から開発が進められ、総費用は「数億ドル以上」(国防総省筋)にも上った。
従来の爆弾は、不発の場合、内蔵された第2の爆発も不発に終わる危険性が高かった。昨夏の第2次レバノン戦争ではイスラエル軍の使った自爆装置付きの同爆弾の不発率は6〜10%に上る「国連地雷除去センター(UNMACC)現地調査」と推計している。
アメリカでは陸軍の保有する450万発(個爆弾6億個)の大半が80年代までに製造された旧型(不発率4〜16%)で、自爆装置を持たない。アメリカ軍は03年のイラク戦争の当初約1カ月で約1万発の同爆弾を使用した。子爆弾の数にして4万〜12万個以上が不発弾として残り、多くの民間人が死傷した。
これまでも、侵攻した他国に多くの被害をもたらした事実を知りながら、その因果関係に目を瞑ってきた。アメリカ国務省は、01年、クリントン政権末期に内規で決めた「05年以降に製造するクラスター爆弾の不発率は1%以下とする」とした、すでに現在の実態からはかけ離れた目標を後生大事に、依然としてクラスター爆弾の軍事的有効性を重視する姿勢を見せつけた。自らを世界の警察と任じながら、大国の武力統治の論理で我を通す。これが民主主義というのなら、日本は民主主義でないことを選んだ方がよい。
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