歌麿とダ・ヴィンチ
日本が世界に誇る江戸の浮き世絵師、喜多川歌麿の絵の発見と、もう一方は発見ではないが古城から盗まれていたイタリアの巨匠ダ・ヴィンチの絵「糸車の聖母」が見つかった記事と絵が同日の紙面に並んで載った。
♦歌麿の「女達磨(だるま)図」がニュースの時間にテレビに映し出された瞬間、達磨の扮した遊女が纏う朱の衣の余りの鮮やかさに圧倒される思いだった。遊女の美しい歌麿特有の端麗な顔だちが一層際立って見事な一幅の掛け軸だ。
縦36・5センチ、横56・5センチで、歌麿全盛期の少し前の寛政2〜4(1790〜92)年に描かれたとみられるものだ。昭和初期の資料には記載されてあったが写真もなく、幻の存在であったという。
所有者の女性(栃木市)の夫が20〜30年前、廃品回収業者から3000円ほどで購入していた。現存する歌麿の肉筆画は30点ほどで、学術的に貴重な発見という。千葉市美術館の浅野秀剛学芸課長が鑑定し、筆運びなどから真作と判断された。
♦ダ・ヴィンチの方はテレビでは見られず、新聞もモノクロの小さな写真だけのものだ。「糸車の聖母」は3作品が残されていて、いずれも真贋が詳らかではない。
英国警察当局は4日、03年に英スコットランドの古城から盗まれていたレオナルド・ダ・ヴィンチの作品とされる油絵「糸車の聖母」を北部グラスゴーで発見、事件に関与した男4人を逮捕した。「糸車の聖母」は16世紀初頭(1501或いは02年とも)の作品で、推定3000万ポンド(約71億円)とされている。作品は古城に住んでいた美術蒐集家として知られた富豪が所有していた。彼は発見直前の今年9月に83歳で死亡していた。
毎日新聞紙上の「糸車の聖母」はバックに草原の奥に丘か、或いは海の遠くに島状のものが描かれた絵で、他の2枚の山並が描かれたものと異なる。「最後の晩餐」の精細な研究でもわかるように、ダ・ヴィンチはパースペクティブ(遠近法)を取り入れた細心の構図で画面を構成していることがわかる。しかし、真贋の定かでない3枚には、背景を単純化した奥行きのない海(草原?)1点と、樹木の生えていない岩山だけの背景(2点)で如何にも絵が薄っぺらで平板だ。特に今回発見されたものの贋もの臭いのは、聖母と幼子イエスに共通する毛髪の描写の頼りなさだ。何だか小学生が色紙を指先で千切って張り付けたような全く量感のない髪。ということは聖母には後頭部へ続く丸みが感じられないことだ。
3枚の絵は親子ともコピーしたように同じポーズで描かれている。3枚に共通の目につく特徴として、マリアの右手のまるで近代の短焦点レンズで撮影したように大きく強調された違和感である。2つ目は、幼子イエスの極度に誇張され、デフォルメ(醜くすること)されて歪んだ顔面だ。
優れた絵には素直に感動する感受性を自慢する私には、「聖母子」が描かれている割に、何の感銘もないとても安っぽい絵に映った。ダ・ヴィンチが描いたものとはとても思えない。僻根性からではない、71億円もする値打ちはないだろう。
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