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2007年10月23日 (火)

続 「長期脳死児」(診断後1カ月以上)60人

前回13日、過去8年間に行なわれた脳死下での移植件数を書いてその実態を示した。移植にかかる経費のことに触れるのは目的ではない。

国会に出された法改正の狙いは、欧米並に脳死を一律に人の死とし、現行15歳の年齢を12歳にまで引き下げて、脳死者の身体が冷えきらないうちに、待ちわびる人の数に比べて、絶対数の足りない臓器を逸早く解剖して取りだせるようにしようとの魂胆だ。あくまでも医学的な見地から見れば当然の処置なのだろうが、前回みたように、脳死後も、稀にでも6年間も心臓が動き続け、肉体的な成長を続ける例もあり、その他の症例でも1カ月以上も心停止のない60人を数える『いのち』があるのだ。本人が生前、提供の意思表示をしていれば何も言うことはない。一般には、脳死判定がでたからと、さあ急げ!で身体にメスをいれることをしてはならない。臓器を待つ身以上に『いのち』を失う側の家族のことを思えば切り刻まれることは耐えられることではない。私は弟を先に亡くした。もしもその身体にメスを入れる医者がいたなら、本人が意思表示していようと、その医者の行為を黙って見ていることはないだろう。美名に隠れた博愛など信じないからだ。

移植批判に対する反論も多くある。
♢移植は自然に反する医療か
健康を得て生存することは憲法で保障されている。そのための治療を選択・希望することは個人の自由で、尊重されるべきだ。反対の立場から、治療を拒否することも個人の自由だ。しかし、自分が移植に反対だから、希望する人の権利まで否定することはない。

♦反論の反論になるが、「自然に反する医療か」と設問しておいて、人の生存権に話をすり替えている。自然ということで言うならば、移植は自然に反していることに疑いはない。自然をいうならば、重篤の身は治療などせずに運命に任せ、自然死することが一番の自然といえる。私の生き方はこれだ。

♢移植は他人の死を待つ医療か
移植を待っている患者は、目前に迫る死の恐怖と戦いながら、1日も早い提供臓器の出現を願う気持ちなるかも知れない。しかし、それは不幸にも脳死に至る人たちの中に、提供の意思のある人が出ることを願う心理であって、個人の死を願うことなどでは決してない。

♦死の恐怖と戦っているのは、移植を待つ人たちだけではない。それが提供の意思のある人であろうと、ない人であろうと他人の『いのち』の終焉を待つことに違いはない。いくら時間がかかっても、待てば移植が受けられる人は幸せだ。しかし、給食費や保育費、年金保険料さえ払えない人たちが助かる可能性は極めて低い。“可哀そうなわが子に憐れみを”、と同情に縋ることしかできないだろう。確かに可哀そうだが、世界のどこかで栄養不良や病気のために10秒間に3人の幼い命が失われている。私は、たった1000円で150人以上が救えるユニセフへの募金の方を優先する。

♢提供移植は少数の人しか受けられず、本質的に不公平医療である
米国UNOS*の統計(1993)によると、
 移植を待てずに亡くなる患者の割合は心臓移植で33%
                  肝臓移植で18%
       欧州のデータでは心臓移植で 15・8%
の数字がある。
*UNOS(United Network for Organ Sharing)-全米移植臓器配分ネットワーク

臓器提供者の不足のため現時点では希望者全員が移植を受けられないのは事実だ。しかし、全員が助けられないからといって、一切移植してはいけないという主張は、沈没船で全員が助けられないから、不公平になるから誰も助けるな、というのと同じではないか

♦そうではない、難破船の例えでいうなら、助けられる人は助ければよい。間に合わなかった人は助けようはない。海の藻屑になるだけだ。アメリカ映画に「海の魂」(1937、ゲーリー・クーパー)というのがあった。波間に溺れそうになった人たちは助かりたい一心でボートにすがりつく、それ以上ボートに引き上げれば先に助けた女、子どもが海に投げ出される。その時リーダーがオールを手に振り上げると、ボートに縋りつく人間たちの手を叩きつけてボートから切り離す。ボートに乗り込んだ人は助かるが、海中に残された人たちの身は・・・。船が持つボートの数は少ない、運命だ。海事裁判が開かれたがリーダーは当然の処置として釈放される。
 医療では、海に投げ出された人たち、そこまで救えるとは思っていないだろう。提供者が少ないからといって、15歳の年齢を12歳に下げ、脳死即解剖、解体を可能に改正しようとは治療としては行き過ぎだ。

♢レシピエント(recipient - 臓器移植の受容者)の選択は公平に行なわれるか
金や権力を握っているものが優先され、弱者が後回しにされれのではないか
現在では厚生省の諮問機関である日本臓器移植ネットワーク準備委員会のレシピエント選択基準検討作業部会において、臓器ごとに厳正な基準が定められている。
 主として、血液型、組織的合性、臓器のサイズ、患者の重症度、待機時間などによって決められ、経済力や縁故などによって、順位に影響を与えることは起こり得ない

♦これはあくまで原則。必ず例外は起こりうる。例えば患者の重症度などというものは、如何ようにも解釈することは可能だ。

また、移植用臓器の売買が行なわれることも起っている。足りない臓器を死刑囚から移植した国も過去にはあった。秦の始皇帝の時代から、人は死をおそれた。しかし、人には寿命というものがある。人の死まで持ち望んで生きることもないだろう。私は誰の臓器も欲しくないし、肉親をのぞいては、誰にも与えたくない。

                 -- 完

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