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2007年8月27日 (月)

医師の戦争犯罪

今年も8月が過ぎて行く。15日付けの記事(毎日新聞)で、戦後世代がアンケートをまとめて書いた短い文(『 』で示した)だが、どうしても触れておきたい心に残るものが1つあった。

『非人道的な人体実験を行なったナチス・ドイツや旧日本軍731部隊*など、医学を修めたものによる戦争犯罪の講議やゼミを設けている大学医学部・医科大は、回答を寄せた43校中の2割に止どまることが、医師グループによるアンケート調査で分かった。』

*731部隊‥(ななさんいちぶたい)とは大日本帝国陸軍の関東軍防疫給水部本部のこと。日中戦争から太平洋戦争中にかけて発足したBC戦(生物・化学兵器)研究機関「軍医学校防疫研究室」の下部組織で、関東軍管轄区域内の防疫・給水業務を行なうことを目的に設置された。当時からその特殊性によって気密性が非常に高い組織であった。細菌・化学戦(毒ガスなど)研究のために生体解剖(多くは中国人、モンゴル人捕虜で、戦後ソ連・中国の調査では約3000人以上と推定されている)などを行なったとされている。また、敗戦後のアメリカ軍との取引により、研究室での研究成果をアメリカ側に引き渡すことを条件に、戦争犯罪に問われずに、戦後の日本の医学会の中枢に入り、その重鎮**となったため、長い間731部隊についてはタブー視されていた。近年になって旧幹部の引退などなどに伴い、徐々にそのタブーは解かれつつあるようだ。

**薬害エイズ事件において被告となった企業ミドリ十字の創始者は、731部隊の初代部隊長石井四郎の片腕であり、一時は彼自身731部隊の部隊長も務めた北野政次である。

『ドイツでも同じ調査を実施し、回答した医科系大学のほとんどが、医師の戦争犯罪について教えていると回答。日独の医学教育の違いが改めて浮き彫りになった。

調査は、開業医でつくる「全国保険医団体連合会」(東京都渋谷区)や、第二次大戦中の医学会の戦争責任を問う「15年戦争と日本医学医療研究会」(事務局長、西山勝夫・滋賀医科大教授)などが行なった。日本では大学医学部・医科大の全80校に、ドイツでも全30校にアンケートを送付。国内では東京大や大阪大、九州大など43校(回収率54%)から有効回答があり、ドイツは12校(同40%)だった。

一般的な医の倫理を問う質問に対しては、国内42校がテキストやビデオをもとに講議やゼミを開催しているとした。しかし、戦時下の医学犯罪を教訓に、医学研究の被験者や患者の人権を守ろうと世界医師会がまとめた国際的ルール「ヘルシンキ宣言」***を取り上げる講議などがあったのは、12校(28%)だけだった。』

***ヘルシンキ宣言‥1947年6月、ナチスの人体実験の反省より生じたニュールンベルク綱領****を受けて、1964年、フィンランドの首都ヘルシンキにおいて開かれた世界医師会第18回総会で採択された、医学研究者が自らを規制するために選択された人体実験に対する倫理規範。正式名称は「ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則」である。以後、数度に亙る修正が加えられており、2004年、東京総会で第30項目明確化のための注釈が追加されている。日本では、全ての大学医学部、医科大学、所要研究機関に倫理審査委員会が自主的に設置されている。

****ニュールンベルク綱領‥1947年に、ニュールンベルク裁判の結果として提示された、研究目的の医療行為(人体実験)を行なうに当って厳守すべき10項目の基本原則である。ニュールンベルク裁判では、第二次世界大戦のナチス・ドイツによるユダヤ人に対する虐殺・人体実験などが、反倫理的な犯罪として裁かれたが、人体実験そのものが禁じられたのではない。この綱領は医学的研究のための被験者の意志と自由を保護するガイドラインである。

10項目の最初には次のように書かれている。
「医学的研究においては、その被験者の自発的同意が本質的に絶対に必要である。このことは、その人が同意することができる法的能力を持っていなければならず、暴力、ペテン、欺き、脅迫、騙し、あるいはその他の表面に現れない形での強制や威圧を受けることなく、理解して上での間違いのない決断を下すのに十分な知識と包括的な理解を持って、自由に選択できる状況のもとで、被験者となる人が自発的同意を与えるべきであることを意味している。そのためには、医学的研究の対象とされている人から確定的な同意を受理する前に、研究の性質、期間、目的、実施法法や手段、被験者となったために起こりうると考えられるすべての不自由さや危険、健康や人格に対する影響について、医学的研究の対象とされている人は、知らされる必要がある。同意の内容が妥当なものであるかどうかを確かめる責任は、実験を開始し、指導し、あるいは実施する各個人にある。これは、実施責任者が難を逃れて他の人に責任を押し付けることのできない実施責任者個人の義務であり、責任である。(現在のハイカラな言葉でいう、インフォームド・コンセント)

『さらに、中国で生物兵器の人体実験などを重ねた731部隊や九州大学医学部での捕虜生体解剖事件*****、ナチスに加担した医師の戦争犯罪について教えていると回答したのは、9校(21%)に止どまった。』

*****九州大学医学部捕虜生体解剖‥第二次世界大戦下、1945(昭和20)年17日から6月2日の間に日本本土空襲のため飛来したアメリカ空軍爆撃機B-29が不時着した。西部軍指令部は搭乗員の12人を捕虜とした。裁判なしで8人を死刑処分とした。それを知った第一外科出身の見習士官、同外科教授の石山福次郎教授らが「生体解剖の実施」を軍指令部に提案して許可される。死刑を宣告された捕虜8人を指令部から病院に移送する。その直後、同大医学部教授、助教授ら医師、医学生、看護婦など40人以上が動員され、生体解剖(麻酔をかけられていたが、手術中、若しくは術後すぐに死亡した)で肝臓・心臓などの器官を取り除いたり(食してもいる)、血液の代用として海水の注射が可能か否かの実験をした。
 敗戦後GHQの調査が入り、昭和23年8月、軍関係では絞首刑1名、終身刑3名、重労働(7〜20年)5名、九州大学関係では絞首刑3名、終身刑2名。重労働(3〜25年)9名、無罪2名、摘出した肝臓を食べたという疑惑事件、5名すべては無罪の宣告を受ける。昭和21年7月、石山教授収容先の福岡・土手町刑務所で「一切は軍部の命令、責任は余にあり」と弟子、看護婦らの釈放を願いながら首吊り自殺をした。
 2年2ヶ月後、マッカーサーは再審減刑を行ない、絞首刑の判決を受けた九大関係者は全員重労働(15〜45年)に減刑した。

『一方、ドイツではヘルシンキ宣言について10校(83%)、ナチス政権下の戦争犯罪については11校(92%)が講議などを設けていた。

ある関東の国立大学法人では、731部隊員が自校の出身であることを実習の際に教えていた。担当していた教官は「歴史は繰り返す。過去をきちんと教えることが大切だ」と話した。

アンケートの結果をまとめた原文夫・大阪府保険医教会事務局参与は「薬害エイズ事件を引き起こした旧ミドリ十字の設立に731部隊員が係わったように、薬害や医療過誤の背景の一因には、医師や医学会が戦争に加担した責任に向き合ってこなかったことがある。負の歴史を踏まえた医学教育を施すことが、医の倫理の確率に欠かせない」と話している。』

 731部隊については敗戦直後から少しずつ漏れ聞こえていた。当時の軍人の横暴さ、漢民族、満人、韓民族蔑視を見て来た世代には、生体解剖くらいのことは朝飯前でやるだろうとは類推していた。その後三光作戦なる言葉を知り、真贋取り混ぜた写真も目にはしていた。しかし、日本人は臭いものには蓋をして、見ざる聞かざる言わざるで都合よく生きる術を知っていた。都合の悪いことは知っても敢えて傷口を広げる手だては取らないで戦後を送って来た。特にアメリカの冷戦時代の日本占領政策に係わるものは、黙して語れないタブーとなったまま過去へ遠ざかろうとしている。アメリカは、731部隊のBC戦の研究資料は部隊の責任者を戦犯から外しても、アメリカにとって、資料がソ連に渡ることは是が非でも防がねばならないものであった。そのため、東京裁判でも731部隊からは誰1人裁かれるものは出なかった。彼らはそのまま大学や医療機関に戻ると、戦後の日本の医学会の中軸にい続けることができた。

先の戦争は自衛のためのもので、侵略戦争ではなかった、と戦争そのものが正当化されそうな風潮の中で、731部隊や九州大学の戦争との関わりは闇の中に消え去ろうとしている。明確な記録文書は九州大学生体解剖事件以外はないが、空白を埋める手記などは発掘されつつあり、アメリカ側の極秘文書もいずれは公開されるときが来るだろう。責任追求の手は、ドイツに見習うべきことは余りに多い。日本も日本人の手で、今次大戦で医師が戦争で手を汚したことの責任について見直し、歴史の証言として記録に止どめて置くべきだろう。

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