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2007年6月10日 (日)

「特急内で強姦」見て見ぬふり - 2 -

引き続き毎日新聞(6/4)から
同新聞「開かれた新聞」委員会*の月例報告(5月度)では、JR北陸線の特急車内で起きた女性への強姦事件を取り上げた。一連の記事に対して読者からも賛否の意見が多数寄せられ、記事の扱い方などについて委員の見解を尋ねている。(見解は主に東京本社発行の最終版に基づく)

*「開かれた新聞」委員会は社外の第三者機関で(1)人権侵害の監視-記事によって当事者から人権侵害の苦情や意見が社に寄せられた際、社の対応に対する見解を示す(2)紙面への意見-報道に問題があると考えた場合、意見を表明する(3)メディアのあり方への提言-より良い報道を目指すための課題を提言するなどの役割を担っている、としている。
今回の委員は、記事掲載順に、
 玉木明(フリージャーナリスト)、吉永晴子(テレビプロデューサー)、田島泰彦(上智大教授)、柳田邦男(作家)である。

各委員には、新聞社が書いた記事を対象に意見を聞いているので、ある意味では言いたいことを言うだけのものになっている。「あなたならどうしましたか」の設問なら違った文言も並んだかも知れないが、そこを訊ねられた訳ではないから気楽なものだ。正義の味方を装っていれば無難な文章は綴れる。レスラーや、力士、それにひょっとして懐に銃器を所有していた人間でも乗り合わせていれば、未然に防げたかも知れないが、普通の男女40人ではただの烏合の衆、無力の塊だ。これから先は非難を覚悟で書くが、私自身、正義感は持ち合わせているが、立ち向かう勇気はない。被害にあっている女性がわが娘、妻ならば、命を引き換えにすることも厭わないが、そうでなければとても立ち向かえない。

今までには電車の中、人混みの中、映画館の中、スーパーの中などで、散々大声で人を怒鳴り付けてきた。それこそ見るに見かねてだ。しかし、たまたま何度か一緒にいた妻は、歳なんだから、今に殺される羽目になる、止めて欲しい、と言われてからは、確かに昨今の世情を見ても、簡単に殺されることになる可能性が極めて高いことに気がついた。それからのち現在では、そのような場に遭遇しても極力気持ちを抑えることに努めているし、見ないで済むところに避難する。所謂識者に言わせれば卑怯者の立場を取っている。

【閑話休題】(《内は私見》)
♢玉木委員
 乗客が傍観するしかなかったのは、男が怖かっただけじゃないだろう。子どもが溺れている、駅のホームから人が線路に落ちたような場合と違って、今回はとっさに事件性を見抜き、事の全体を把握することの難しさがあったのではないか。<勘違いだったら>という躊躇の気持ちもなかったとは言えない。
 それでもなお、車掌に連絡することぐらいのことはできたはずだという思いは残る。悪を抑止する社会の力が衰退してきていると思わざるを得ない、という。毎日新聞だけが一面で報じた。社会に警鐘を鳴らす必要性を感じてのことだろう、と。
 「特急内で強姦」という見出しには、胸を射抜くような衝撃力があった。被害者への配慮を欠いているという意見もあるだろうが、「暴行」と表現して被害者に配慮したことになるのか。ありのままの現実にしっかりと向き合うことからしか、悪を抑止する社会の力は生まれてこないように見える。《おっしゃる通りです。》

♢吉永委員
 「強姦」というグロテスクな犯罪を思い起こさせる強烈な見出しの文字に吸い込まれるように記事を読んだ。特急車内という公共の場所での恥ずべき犯行だが、記事は淡々と事実を書き込んでいた。読者の反響の大半は、同じ車輌に乗り合わせた乗客の態度に関するものだった。犯人に凄まれたとはいえ、なぜ車掌らに知らせなかったのか、手段はあったのではないかというものだ。
 結果として、乗客が見て見ぬふりだったことでいえば、プライバシーを重視し、われ関せずを決め込む最近の社会的風潮が影響しているかとも思うが、それだけではない。見て見ぬふりは人間の本性として昔からある。被害者への配慮が必要なのは言うまでもないが、あえて「強姦」という言葉を使って目立たせたのは、読者に自分の身に置き換えて考えてもらいたいからだろう。ただし、タイトルに負ける記事内容では意味がないが、読者に我が身を顧みることへの効果としては、今回の毎日新聞の扱いと内容は、他紙と比べてもよかったと思う。《新聞社もこれだけヨイショ記事を書いてもらえれば有り難い限りであろう。》

田島委員(概略)
 特急車内で女性が暴行、強姦されるという前代未聞の事件である。約40人の乗客全員が気づいていたわけではないにしても、電車内での卑劣な犯罪を乗客が制止、通報できなかったことは、私たちの社会の深刻な病理を示すものとして重大であり、毎日新聞が一面(東京朝刊)で掲載したのはもっともだ。毎日新聞は、社説や特集記事も組み、防犯対策の問題や見て見ぬふりを決め込む土壌を含め、原因や背景を探る努力を試みてきたのは評価できる。
 今後も検証や議論を重ね、見て見ぬふりを決め込む土壌や、正義感・連帯感の劣化がなぜ生み出されたかなどについても掘り下げて欲しい。性犯罪においては、被害者の匿名など適切な配慮が欠かせないが、暴行などの表現で曖昧にしないで、犯罪の事実をきちんと「強姦」として示すことも必要である。今回の事件では、他紙と異なり、毎日が強姦と表記したのは、けだし当然である。《各委員共通のことだがヨイショ、ヨイショするのに、他紙と比較することもなかろう。他を貶さなければ己の主張が認められないのは論拠がひ弱いからだ。それとも毎日新聞を購読している読者が景品に引きずられて他紙へ浮気されないための予防線か。》

♢柳田委員
 この事件は、背景に最近の日本人に見られる「自己中心主義」「他者への不感症・非介入」「個人情報“過保護”」などの影響が感じられる特異なものだったから、一面で取り上げる価値はあった。初報段階としては、事件の問題点を考える上で必要な要素をほぼ揃えていたと思う。
 ただ、座席での行為が約1時間、トイレに女性を連れ込んでからの犯行が約30分もあったという点をもっと強調すれば、乗客たちが何の行動も起さなかった異常さをリアルに伝えられた。とりわけ誰1人として携帯電話で110番通報しなかったことは、もっと強調されるべきだった。
 強姦事件は被害女性の一生を破壊しかねないにも拘わらず、加害者側にはその万分の一の罪意識もない。新聞はその凶悪性を強調し、撲滅への努力をするべきだ。一方、報道で受ける被害者への心の傷とケアの問題がある。犯罪の撲滅に必要な報道の積極性と被害者の心の傷のケアというジレンマをどう克服するか、ということで柳田は次のような提案を示している。
 ①性犯罪の罰則強化のキャンペーンに取り組む
 ②被害者の社会的立場と人生を温かく見守るような論調の記事を機会あるごとに載せる
 ③被害者救済やカウンセリグ支援の基金づくりの先頭に立つ、と。
《とくべつ毎日新聞に阿(おも)ねた書き方はしていない。事件の背景も適格に捉えているが、何せ限られた小さなスペースでは話の展開は不可能だ。世間では長屋のおつき合いは遠い昔。井戸端会議はしたくても井戸は消えた。気心知れたおつき合いは今では少ない。人々はマンションに入り、隣は何をする人ぞ、で生活する都会人になった。おのずと自己中心になるのは自然の成りゆきだ。》

〈事件のその後〉
 事件が起きたのと同じJR北陸線の富山発大阪行き最終特急「サンダーバード50号」に毎日新聞の記者が乗り、レポートしている。5月29日午後7時51分に富山出発。女性が被害に遭った自由席の6両目には、入れ替わりで20〜30人が乗車していた。大半は中高年のサラリーマンで、女性は2人だけ。2人掛け座席に荷物を置き1人で座る乗客が多く、あまり周囲を気にする様子はない。毎日通勤で利用するという女性会社員(28)は「以前は安心して1人で眠っていたが、事件後はなるべく別の女性客の近くに座る」と話した。

 強姦罪で起訴された男が女性を脅していた2列目の座席から3メートルほど前に非常ボタンが見える。JR西日本は事件発覚後、ボタンの位置を示すシールやポスターを張り、深夜に限り警備員を導入した。沿線の警察も車内警戒を強化している。

当時、約40人の乗客の一部は男に凄まれ、犯行を看過したという。29日夜には、警備員が6回も巡回していたが、眼界はある。過剰な「監視」も息苦しい。一人一人が他者への共感とほんの少しの正義感を持つことでしか再発は防げないと感じた、と結んでいる。

《事件が過ぎ去ると、喉元過ぎると何とやら、で今度は鬱陶しい巡回をプライベートの侵害だ、落ち着いて休むこともできないともの申す人間が出てくることが予想される。個人情報保護の風潮は、電話帳、名簿、登録などへの過剰反応を惹起させ、犯罪における聞き込み捜査の難しさをも生んでいる。東京本社編集局次長・河野俊史も編集局から、で書いている「触らぬ神に祟りなし」の風潮が加速しているように感じます、と。》

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コメント

こんな事件があったんですね。
ただマスコミが見てみぬふりの乗客を非難するのはどうかと・・・
ジャニーズ事務所社長(男)が所属タレント(男)達に性的虐待を加えてる件に関して全マスコミが黙殺しましたからね。
日本最大の芸能事務所による性的虐待は裁判でも認定されたため、海外でも大きく報道されたのに総スカンです。
この点は海外マスコミも批判してます。
今この瞬間にも罪無き青少年が性の玩具にされてるのかと思うと・・・

投稿: 通りすがり | 2008年1月14日 (月) 07時30分

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■今の世の中で「大人を逃げるな」なんて無理だろ? 社説:特急車内強姦 見て見ぬふりを決め込むな http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20070424k0000m070155000c.html  乗客が居合わせた車両の中で、一人で座っていた若い女性がわいせつ行為をされ、さらに車内のトイレに連れ込まれて暴行されるという事件が起きた。強姦(ごうかん)容疑で再逮捕された男の蛮行に強い憤りを覚えるのはもちろんだが、それ以上に、このような... [続きを読む]

受信: 2007年6月13日 (水) 16時59分

» 「見て見ぬふり」が増えるのも頷ける。 [ぷにっと囲碁!なブログ 〜囲碁とほっぺたが大好きな人の日々のつぶやき。〜]
■モロに「やられ損社会」じゃん。 特急車内で2度暴行…弁護側「脳挫傷で欲望抑えられなくなり…」 http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/crime/59701/ 06/29 14:05  JR西日本の特急「サンダーバード」内で乗客の20歳代の女性に暴行したとして、強姦罪などに問われた滋賀県湖南市石部南の解体業、植園貴光被告(36)の公判が29日、大津地裁(長井秀典裁判長)であり、植園被告は起訴事実を大筋で認めた。検察側は、植園被告が暴力... [続きを読む]

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