密室を出た「飛鳥美人」
文化庁は12日、奈良県明日香村の高松塚古墳(7世紀末〜8世紀初め)の石室から「飛鳥美人」と呼ばれる女子群像が描かれている西壁を、取り出した。
作業の様子はテレビカメラが茶の間に運び、吊り上げ作業の瞬間を映像で見せてくれた。発見から35年、密室に厳重に保存された状態は、特殊な立場の人間だけが肉眼で見ることを許され、国民の殆どにとっては存在だけは知っている「国宝」であった。
1300年の眠りから醒めたにも拘わらず女人たちは、再び陽の目を見ることが叶わず、現代科学を過信する連中に、今度は35年間の囚われの身を再び暗闇で過ごすことになった。その間、環境の変化は彼女たちの体を蝕み、黒黴に見舞われる無惨な災難に遭っていた。にも拘らず、古墳内の環境変化を甘く見た文化庁は、姑息な手段で継ぎはぎ程度の修理でその場を凌ぎ、遂に抜き差しならない状態にまで劣化させてしまった。
密室内での管理はこれ以上不可能、即断の必要を遅らせ、益々ダメージを大きくした。今回の取り出しの際には女人群像には白いレーヨン紙が貼られ、カメラに映った映像からは判別することができなかったが、黒ずんだ黴
らしきものが透けて見えていた。
この後はまた大方の人間からは隔離され、10年を掛けた修復が待ち構えている。日本人男性の平均寿命は78.56歳(平成17年調べ)。私の残りの人生が平均どおりとすると、「飛鳥美人」が元通りとはいかないまでも、黒黴まみれから抜け出せた姿を拝めるかどうか心もとないが、できるなら拝みたいものだ。また、多くの人たちも、再び女人たちが暗闇の世界に隠れることは望んではいない。すべての壁画の部分だけを剥離して(キトラ古墳に倣って)誰でも見ることができる施設を準備することを望みたい。遺跡の現地保存にこだわった結果が、取り返しのつかない失態(1300年間の遺跡内環境の再構築の不可能性)であったことを反省し、常に観察が可能である状況下に置くことで、対応できる環境を作って置くべきだろうと考える。
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