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2007年4月26日 (木)

「親学」で家庭内まで あれこれと

毎日新聞(4/26)から
手に取って驚いた、大きな字で『親学』とある。これ、一体何?ざっと走り読みしてカッコ内は「おやがく」と読み、親についての学問のようだ。続いて拾い読みして行ってますます驚くことになった。学問らしいものは何一つない。全部が母親学級の和気藹々の場で話し合ってメモを取る注意事項かお約束だ。子どもを母乳で育てることを呼び掛けたり父親にPTA参加を呼び掛けるなどの内容。政府の有識者会議が家庭生活のマニュアルを示し提言することには会議内にも慎重論があるだけに、世論の評価は分かれそうだ。慎重論があるのなら、急いで中途半端なものを発表することはない。今までと同じように思いつきで行き当たりばったりの提言を口にしているだけだ。さて、

政府の教育再生会議は25日、親に向けた子育て指針である「『親学』に関する緊急提言」の概要をまとめた。
 親切に新聞が提言のポイントをまとめてくれている。
  1. 子守唄を聞かせ、母乳で育児
  2. 授乳中はテレビをつけない。
    5歳から子どもにテレビ、ビデオを長時間見せない
  3. 早寝早起き朝ご飯の励行
  4. PTAに父親も参加。
    子どもと対話し教科書にも目を通す
  5. インターネットや携帯電話で
    有害サイトへの接続を制限する「フィルタリング」の実施
  6. 企業は授乳休憩で母親を守る
  7. 親子でテレビをはなく演劇などの芸術を鑑賞する
  8. 乳幼児健診などに合わせて自治体が「親学」講座を実施
  9. 遊び場確保に道路を一時解放
  10. 幼児段階で挨拶など基本の徳目、
    思春期前までに社会性を持つ徳目を修得させる
  11. 思春期からは自尊心が低下しないよう努める などなど。

ご親切なアドバイスだが、本当に余計なお節介だ。
1.)の子守唄などのんびり歌って聞かせる親などそうは居まい。だいたい子守唄を知らない親の方が多いのではないか。ばかの一つ覚えの持ち歌では子どもだって嫌になる。それに問題は母乳だ。働きに出ている母親の多い家庭では、保育園でもらうのは母乳であったとしても哺乳ビンからだろう、母乳は母の胸に抱かれて乳房から飲んでこそ、肌のぬくもりや心臓の鼓動を直に受けて乳児は安らいだ気分で飲めるのだ。その意味ではこの時期には父親が子育て休暇を取っても意味はない。男ではこの時期母親の代用品にはなれないのだ。育児に専念できる母親は可能なのかも知れないが、外で働く母親には職場に付属する育児施設がどうしても必要だ。アグネス・チャンがテレビスタジオに育児中の子連れで顔をだし所謂アグネス論争を巻き起こしてから20年が経過する。

女性なら必ず母乳で育てられるとは限らない。体型が崩れるから、と早々に断乳する女性は別として、母乳の出ない母親を苦しませることにならないよう配慮する必要がある。

昨年正月明け4日にローソンが企業内託児所の構想を発表してから、11月にはあちこちに企業内託児所を設備する企業、計画中の企業が出始めた。父親は法外な時間外残業でますます子育てから遠ざけられたのが理由の一端でもあったろう。政府はかけ声を掛ける前に、親たちが働きやすい環境を用意することが先決だろう。

2.)は昔から言われている“三つ子の魂百まで”を5歳に置き換えただけのことだ。現在ではどの育児書を見ても、それを「昔の古臭い神話」として無視し続けてきた。近代化学では多少の色づけをして5歳にした根拠を「脳科学では5歳くらいまでに幼児用の原型が出来上がる。9歳から14歳ぐらいに人間としての基礎ができる」と説明している(山谷えり子首相補佐官や池田守男座長代理らがまとめた概要から)。手許においてわが子を育ててきた昔の人たちの方が余ほど知恵を持っていたと思える。

3.)の早寝早起き朝ご飯などは、それこそ噴飯ものだ。朝は草々に、託児所、保育所に子どもを放り込むのに忙しい親たちだ。朝ご飯がどうなるかには、かかずらっていられない。中には手作り弁当を持たせる母親もいるだろうが、逆に朝ご飯を与えないで家から出し、学校の助けを先読みしている親もいる。そんな見過ごすことのできない家庭の子には、やむを得ず学校は朝ご飯を与えることになるのだ。こんな親は指針が出たからって従うようなやからじゃない。しきりに働く女性たちが言う、「女性の働き易い職場」は作れば作るほど子育ては遠退くのではないだろうか。子育てのし易い働く母たる女性の職場でなければだ。企業は母になった女性の休暇は、少なくとも1人の乳児について3年間は育児休暇を認め、望めば職場復帰を保障する制度、システムを再構築するべきだ。

4.)については私は長男が小学生のおり、社には無理を言って休暇を取り出席したことがある。学校が父親参観日を設けた。何十年も前のことだが延々と自己紹介を回され、順番がきた時、腹立ち紛れに噛み付いたことがある。誰が誰の親であろうと関係はない。親と教師や学校、子の問題を話し合うべきなのに、無駄に過ごす時間が多くあった(最後に近く来た順までには優に一時間近く経過していた)。

5.)はブログで何度も触れているし、6.)は1.)や3.)で既に触れた。

7.)は偏見じゃないか。テレビは確かに日本人を総白痴化して来た。しかし、演劇などの芸術を鑑賞しろ、とは勝手に過ぎる。教育再生会議の面々が、芸術論を口にするほど高尚な鑑賞眼を備えているのか。それほど芸術に詳しい人たちなのだろうか。逆に長々とやっているだけで文化勲章を手にする河原乞食の歌舞伎が芸術と言えるのか。それに芸術とはかくも高額な入場料が必要なものか。再生会議の面々が言う芸術としての舞台は何なのか。私は芸術とは娯楽でなければならない、と思っている。だれでも気楽に鑑賞可能なものこそ芸術でなければならない。芸術と娯楽の間に一線を劃(かく)すべきではない。娯楽こそ大衆の生活の活力源なのだから。

8.)勝手におやりなさい。

9.)1970年8月2日、東京・銀座、秋葉原、新宿に歩行者天国(日、休日の午後0時〜5乃至6時まで車の通行禁止)が、続いて1972年6月1日には北海道旭川市・平和通買物公園が日本初の恒久的な歩行者天国として開設された。このことが頭にあるのだろう、公園があっても子供達が安心してボールを投げあうこともできない、家に閉じこもって外に出ない子どもが増えたこともあるが、禁止事項ばかりが増え、安心して遊ぶ場もない。各自治体で道路と言わず、広く使える場所を選定し、昔のように喧嘩したり、叩きあったりしてお互いの個を確立していけばよい。他人と異なる自分を見い出すのは他と交わらねばできない。叩かれれば痛いことが解れば他人の痛みが解る子になって行く、そうして子ども同士は学んでいけるのだ。今は居なくなったろうか、竹馬(ちくば)の友とはそういう友だちだ。

10.)11.)世の中思春期から卒業していない親だらけだ。欲情の赴くままに行動し、不道徳でも子を作ることは知っている。簡単に別れる、法律が現れて戸籍を失う子が生まれることになる。或いは育てられなないから子は捨てる、虐める、殺す、となる。安普請のアパートがマンションになり昔気兼ねしていたお隣さんの物音が消え、隣が何をする人であっても挨拶をしないで済み、交流がなくても自分の生活は何も困らない。地域の社会性は早くから崩壊していた。

そこへ今回の指針だ。
家庭が監房のように周りを監視カメラで取り囲まれた気分になる。親子の一挙手一投足がレンズの向こう側から覗かれた気分になる。そこまで政府が入り込んで手取り足取りしなければならない問題か。日常発生している虐待や、捨て子、放置、いじめなどに対する心配は理解できるが、そこまで立ち入るのなら、発表された内容では指針としてはまだまだ不十分だ。逆に言えば指針を出すこと自体が不可能で間違いだ。

私は常々現代の親たちの子育ての無責任さを指摘し続けてきた。学校が荒れ放題になったのも、いじめが蔓延るのもすべて家庭教育ができない親の責任であることを言い続けてきた。それこそ家庭教育の再生が必要だと思う。だが、この問題一朝一夕でいくものではない。50年、60年と積み重なって起った家庭崩壊が原因だ。長上を敬う日本人の美徳など、今は「そんなことあったなあ」の過去になった。一家の柱が父親でなくなった。先生は過った「平等」のお陰で生徒と同格のレベルまで下がり、尊敬の対象から滑り落ちた。親たちが考えもなく子の前で教諭、教師を蔑む言葉を吐く。誰がこの手に負えない親たちを作り替えることができるのだろうか。私は以前、「そんなこと 出来るの?」で親の再生には100年から200年を掛けなければ無理、だと書いた。今でもその考えは変らないし、或いはもっと先になることの方が強いとも考える。

指針を総括して法政大教授・尾木直樹(臨床教育学)の話を聞いてみよう。
「問題意識は分かるが、提言は理念やビジョンにとどめるべきだ。細かな点まで立ち入れば家庭や学校現場の手足を縛るだけだ。親も子も、家庭環境にも多様性があり、マニュアル化は間違いだ」。

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