男の作法
一般家庭ではめったに目にしなくなった男性用、女性用が別れているトイレ。わが家でも25年前に建て替えをするまでは、便所(この言葉もそろそろ死語になりつつあるのではないか)は男女は分離されていた。当時小用は、男は立ってするもの、が一般常識(投書の主の言う‘作法’)であった。その常識もそろそろ常識ではなくなりかけているのだろうか。早い時期から西洋式便器を施設した公団で育った世代には、立ってする古い男性用便所は公園のトイレや、駅、公共の施設でしか見なかったことだろう。数日前にブログで書いた地下鉄駅のトイレのスケッチのように、立って用を足す足元へこぼした雫から醗酵するアンモニアの臭いは鼻を衝く。
面白い投書があった。男性のトイレの用の足し方について。
投書の主は、72歳だから私よりは少々若い。この男性は外国映画で見た、妻から「座って使って・・・」と厳命され、男の自尊心をいたく傷つけられる、という例を上げて話を始めておられるが、このような話は日本でも前から奥さんに頭が上がらない情けない亭主の例に上ったり、コマーシャルでもタレントの親子が「男の責任」として便器を汚さないように使用し、清潔を心掛けよう、と掃除をして呼び掛ける。
投書の男性も『長年飛び散る飛沫を始末するのは妻の仕事、と思って過ごしていた。そこで思い出したのが例の映画だった。ものは試しで、便座に腰掛けて用を足してみた。粗相をしなかった。腰を下ろすまでには準備作業は増えるけれど、大したことではない。何よりも零さないという安心感が大きい。で、男の自尊心とやらは?別に何でもなかった』と。彼は考えてみた、『思うに、映画の主人公は有史以来の“男の特権”を奪われ、女性と同じポーズをとらされる屈辱感に耐えられなかったのではないか』。
彼は続ける「しかし、そんな大げさな問題かな。私の場合は誰に知られるわけでもないから自発的にやめたまでだ。ただし、もし、妻に強要されたら、私とて別な反応と感想があったかもしれない。この辺が男の自意識のやっかいなところだ。この作法に切り替えてから3ヶ月が経ち、全く汚さない日が続いている。それでも妻からお褒めの言葉はない。床を汚さないことは当たり前と思っているのだろう。そう、男はその当たり前を破って知らんぷりをしていたのだ、と反省した』。と結ぶ。
考えてみれば男も古い和式の便所の時代でも厳密に大小を別けた使い方をしていたわけではない。大を足しに入って、小の方を少しも足さないで出ることは先ずない。女性のように尻をだし、ついでに小用を足していた。それが洋式になったからとて便器に座ることが男の自尊心でも面子が潰れることでもないと思えるのだが。私は小用のために座ったことは1度もない。
私は何度もブログに書いた。トイレの掃除に関しては家の建て替え後は、100パーセント私がやっている。好きでやっているわけではないが、ただの習慣といえばいいだろう。これも何度も書いたことだが敗戦直後、兵役を経験した1年、2年先輩が復学し、兵役で上官に苦しめられ、敗戦を味わった腹いせのように、下級生をしごいた。その中に便所の掃除があったのだ。何人かが整列し、号令とともに便器を取り外し、校庭へ持ち出し、即製の荒縄で拵えたタワシでただ水だけを掛けた便器を素手で擦り上げるのだ。今、これをやらせれば父兄らは何を言うことやら想像することすらできないが、しかし、このことが60年以上経っても進んで便所を綺麗にし、家庭内のどこよりも清潔なトイレを保つことができているのだ。男は立ったまま使用するのなら、汚したら言われる前に、床だろうと、便器だろうと自分で掃除をすればいい、簡単な理屈だ。
トイレ絡みで笑える話を1つ披露してみよう。どこのサービスエリアでも見られる風景だが、恥も外聞もなくとはこのことだが、老若を問わず、男性トイレに飛び込む女たちがいる。逆を考えれば警察沙汰になることだが、男性に比べ尿道の短い女性は、堪えることができない解剖学的な理由があるから見逃すが、男にだって女性以上に羞恥心はあるのだ。ところがである、日本と同じように郊外の競技場(だったか)のトイレであった混乱を、見事に解消した外国の解決策が放映された。それまでは日本と同じようにお構いなしに女性の男性トイレへの侵入があったのだが、女性も男性と同じように立ったままで小用が足せる補助具が考案され、一気に混乱が解決されたのだ。短いインターバルの時間に、混雑する女子トイレを避け、木立の中の男性のすぐ近くで衣服の中で筒状の補助具を当て、女性たちが立ったまま樹木の幹を囲んで根元に放尿を始める姿を映像として流したのだ。シャーシャーと、アッケラカンとした愉快なスナップだった。女性へのインタビューも行われたが、好評そのものだった。
女性も子どもの頃、男が立ったまま小用を足すのを羨望の目を持って眺めた幼いころがあったと思う。それを真似、衣服を濡らし、親から叱られた経験を持つ女性は多いだろう。私の祖母は驚く私をしり目に、道ばたで、ひょい、と裾をまくり前屈みになり、草の中に飛ばしたのを見たことがあった。家の中では2歳上の姉も、隣で大を足す私の横(戸1枚隔てて)で、男性便器でさっさと済ませ、立ち去ったのを何度か知っている。
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コメント
私は男で、座って用足し派です。
近年ほとんどの家庭のトイレは
シャワートイレ化していると思います。
立って用を足すと、床が汚れる前に指で触る
シャワートイレのボタン部分が汚れます。
冷静に考えるとかなり汚いと思います。
投稿: toto | 2007年1月19日 (金) 10時11分
いつも読ませていただいております。
今は亡き父は身体が少々不自由になった時、私の説明で素直に座ってするようになりとても楽でした。7年前です。周囲の他の方はなかなか言うことを聞かずトイレや衣服を汚すと家族がぼやいていました。男のプライドだったかもしれませんが、素直に事態を認識し受け入れてくれた父に感謝しています。今私は周囲の男性に将来(老後)のために座位の使用を勧めています。
投稿: 1読者 | 2007年1月19日 (金) 15時13分