臭いものに蓋
人類が知恵の限りを尽くして開発し、作り上げたのはいいが、今、その残滓の捨て場所に苦しんでいる。X線利用から始まり、核を分裂させることに成功し原子爆弾に、或いは融合させて水素爆弾に、また分裂のエネルギーを利用して原子力発電にと、発展させてきたが、そこから生まれ出る放射性廃棄物という残滓になって、その処理に難しい問題を突き付けられている。
高レベルの放射性廃棄物は、現時点では、地下深くに埋蔵.保管する方法が検討されている。過去にはドラム缶に詰めて深度の深い海底に投棄する方法が採られたこともあった。地下に埋めるにしても地震や火山脈が走る日本では噴火などにも耐えられる強度を必要とし、地下水汚染がないよう地下300メートルに多重バリアを引いて処理する手法が提示されている。その上、現時点で放射性廃棄物を無害化することは不可能であるとも言われているのだ。
ドイツでは既に地下の岩塩層や廃鉱跡地に埋設処理することで具体的な対策を検討中であるという。日本でも米、英、独、仏などに続いて、高レベル放射性物質のガラスによる固化体を、防護対象とする、中間報告書を17日、経済産業省の総合資源エネルギー調査会原子力防災小委員会がまとめた。
また22日、経済産業省は原子炉中心部の廃材など「中レベル」の放射性廃棄物について、総合資源エネルギー調査会廃棄物安全小委員会は、地下に埋設する際は50メートル以深にするべきだとの報告書案をまとめた。
地球を、人類を、生活を脅かすものはまだ他にもある。地球温暖化を食い止める対策として、温室効果ガスの二酸化炭素(C02)を地中に封じ込める技術の開発が進められている。すでにポーランドではシレジア炭田の廃坑を利用した欧州連合のCCS実証実験「RECOPOL」場で実験の取り組みが行われている。仕組みは簡単で、石炭を採掘するために掘った深さ1キロの立て坑から、パイプを通じて高い圧力をかけたCO2を地中深くの石炭層に送り込み、石炭に吸着させて貯留する。いわば巨大な地下の貯蔵庫にするものだ。
世界屈指の石炭生産国であったポーランドも現在では石炭産業の効率向上を目指し、再構築の結果それまでの生産量が大幅に減少した。ポーランドの国立鉱業研究所所有の炭鉱が次々に閉山、新規のビジネスの開拓が課題となっていたという。最初はCO2を送り込んだ圧力で石炭層から天然ガスのメタンを取り出そうとしたが失敗。だが「今はCO2の吸収源としてビジネスとしての可能性がある」とみている。
シレジアはポーランドの主要炭田で、欧州4大炭田の一つ。石炭層は約40キロ四方に広がっている。具体的な容量は現在調査中というが、これまで掘削した石炭層に大量に封じ込めることができれば、排出権として京都議定書が定めた排出権取引で売却することができるとも見込んでいる。
国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)特別報告書や経済産業省によると、全世界で少なくとも2兆トン、日本でも年間排出量の4〜110倍に当る推定52億〜1500億トンの貯留能力があるという。
日本では、海底の地層が見込まれており、洩れ出したCO2によって海水が酸性化し、生態系に影響するこが懸念材料だが、環境省は通常国会で関係法令を改正する方針で、すでに意見公募の手続きを進めている。
ポーランドのように、地下に埋設しても、海底であっても、時間の経過とともに少しずつ地上に或いは水中に漏れだして来る。地下の場合、住宅密集地などが近くにあれば、CO2が高濃度になれば、さまざまな健康被害を引き起こし、生態系への影響が現れる。これまでも安全を約束したはずの産業廃棄物場から洩れ出す種々の問題は、各地で被害を発生しており、地下への閉じ込めが必ずしも安全な対策ではあり得ず、なお研究の必要を残している。
現時点では、ポーランドのいうような巨大な地下空洞があって吸着貯蔵が可能だが、日本で50〜1500億トン、世界で2兆トンも何時かは限界が来る。一方、排出の方は一向に歯止めは掛からず増え続けている。臭いものに蓋の対策で地球は救えるのだろうか。
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