食習慣が壊れている -1-
2、3日前、テレビでインドの或る家庭の食事風景を紹介していた。
インドと聞けば誰でも思い浮かべるのがカレーだ。何処の家庭にも、古くから伝わるそれぞれの家の秘伝とまでは言わなくとも、特徴のあるカレーの味が伝わっているだろう、と思うのが普通の日本人だろう。ところが見て驚く現実が映されていた。例の日本でもお馴染みの熱湯に放り込むレトルトパウチカレーが利用されていた。解説は、現在ではインドのスーパーでもレトルト食品が並ぶようになり、多くの家庭で消費されるようになっているそうだ。
インドは中国に次いで10億人を超える人口を抱え、現在は衰退を辿っていると言われるが、昔からの綿工業を始め、鉄鋼業、集積回路関係のITやバイオテクノロジーの方面で目覚ましい発展を遂げ、GDP(国内総生産)は合計で世界第11位、一人当りでも世界第4位の国力を維持している。産業は人を必要とし、働く婦人の増加を呼んだ。日本の現状が全く同じ経過を辿ったが、家庭を出て就業する主婦の増加は必然的に家庭の仕事から離れて行くことになった。テレビに映った主婦は、週に3日から4日はそのレトルトパウチカレーにする、と言った。完全に家庭の味の喪失が始まっている。先行して来た日本では、もはや古来からの食習慣は失われたも同然の悲惨な現実があり、インスタントとレトルトの毎日で、働く主婦たちは子育てを放棄したかに見える。次はその実態(98年から6000食以上の家庭の食事)を調査した広告代理店「アサツーディ・ケイ」200Xファミリーデザイン室が纏めた毎日新聞(9/18)の記事から。
5人家族と3人家族の1日の献立(と呼べるかな)だ。先ず5人家族から
(父34歳、母33、長男13、二男6、長女3)
♦朝食
長男 ご飯、目玉焼き、納豆
二男 ご飯、おかずは少し
長女 ヨーグルト
♦昼食
長男 給食
二男 給食
長女 チョコチップ入りパン、市販のレモンティー
♦夕食
長男 チャーハン、スープ
二男 長男の食事を横からつまむ
長女 長男の食事を横からつまむ
母親の言いぐさはこうだ。「朝食は長男は食べるが二男は「食べたくない」と言って食べないことも多い。長女は朝食としてプリンやヨーグルトを食べることがよくある。夫もお腹が強くないので、あまり朝は食べないし、私も独身時代から食べない習慣だった。今も子供たちの残したものを軽くつまむ程度でしっかり食べたりしない。夕食は夫が帰って来て「食べたい」と言わないとつくり始めないので、手の込んだことはしない」と。
続いて3人の家族の1日から
(父36歳、母35、長男3)
♦朝食
長男 乳酸飲料、冷凍プチホットケーキ
♦昼食
長男 アメリカンドッグ、ミルクコーヒー、ミートソーススパゲティーとチャーハンを少し(いずれもコンビニエンスストアで購入)
♦夕食
長男 おかめうどんと盛りそばを少し(店屋物)
母親の言い分「朝食は公園に遊びに行くので時間がなく、簡単なものにした。昼食は公園近くのコンビニで私の食べたいものを選んでしまった。息子はアメリカンドッグとミルクコーヒーを希望した。ミートソーススパゲティーを食べさせたら、汚したりして大変なことになってしまった。昼間公園に行っていて、私も疲れていたので夕食は出前にした。公園に行く時はお弁当を作って出かけたらいいのかも知れないけど、意識と行動が一致しない。実際には無理なことだから楽な方へ流れてしまう」と。
一家そろっての食事の習慣が無くなって久しい。子どもたちは勝手な時間に、勝手な場所で「バラバラ」に食事をする家庭が増えている。1日3食のリズムや朝昼晩のどれかを食べないで済ます人や、お腹が空く度に1日に4食も5食も食べる人もいる。80年代に、一人で食べることで育った子どもたちが親になり、家族別々で食べることに違和感がなくなってきている。親も自分が食べたくない時に食べるのは嫌だから、と子どもたちには習慣としての食事を躾けない。子どもたちが嫌がればその意志を尊重してしまう。いつ、何を食べたら良いか食事についての自己管理能力も育成されていない。好きな時に、好きなものを、と勝手食いする自由を尊重されているように見えて、その実健康を蔑(ないがし)ろにしていることに親も気づかない。
レトルト食品や冷凍食品、宅配サービス、外食などが普通の家庭で増加している。それはよく昔の主婦に比べ、現在の主婦の多忙さが理由に挙げられるが、しかし、今の主婦がよく口にする「時間がない」「余裕がない」「忙しい」「疲れていた」という言葉の本当の意味は、言葉通りのものでない部分が浮かび上がってくる。友だちとお茶をすることと、子どものお稽古ごとの送迎。或いは別の主婦は、週3回の午前中のテニス、また、食事の準備をするのが面倒になった、或いは朝食の準備の10分前になってやっと起きてくる主婦、といった例が次々に示されたという。 ---- つづく
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント