« 加齢臭 | トップページ | 続・高松塚古墳 »

2006年7月18日 (火)

特定外来生物

毎日新聞(7/18)から
全国の養蜂家に危機感が広がっている、という。昨年6月1日に施行された外来生物法で、高級はちみつの取れるニセアカシアが新たな栽培を禁じ、現在は「要注意リスト」に入っているが、今後伐採を勧める対象の「特定外来生物」に指定される可能性が出てきたからだ。

国産はちみつの約半分はニセアカシアからの採取といわれており、日本養蜂はちみつ協会(東京都中央区)の谷奥勝利常務は「指定されると、全国の養蜂業者の半分以上が廃業する可能性がある」と懸念しており、各地の養蜂家からの悲鳴が聞こえるという。

先ず、特定外来生物を知っておきたいが、その前に外来生物法から見てみよう。
その目的には次のように書かれている。
◆ この法律の目的は、特定外来生物による生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害を防止し、生物の多様性の確保、人の生命・身体の保護、農林水産業の健全な発展に寄与することを通じて、国民生活の安定向上に資することです。
◆ そのために、問題を引き起こす海外起源の外来生物を特定外来生物として指定し、その飼養、栽培、保管、運搬、輸入といった取り扱いを規制し、特定外来生物の防除等を行うこととしています。
【特定外来生物】とは、
● 海外起源の外来生物であって、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるもの中から指定される。
● 特定外来生物は、生きているものに限られ、個体だけでなく、卵、種子、器官なども含まれる。

ニセアカシアは外来種(北アメリカ原産)だが日本に入ってきたのは古く、今から133年も前の明治の始めのことだ。その時に名前に使われたのがアカシアで、以来ずっと日本ではこのニセアカシアをアカシアと呼んできた。歌謡曲に歌われるアカシアはすべてこのニセアカシアを歌ったものだ。
私の子供の頃、街路樹に並んだアカシアの大木が毎年零れるように白い花(桃色と言われているが、印象は真っ白だった)を咲かせ、馴染み深い名であり、花であった。西田佐知子の歌謡曲よりも早く、戦時少年であった頃に軍歌をよく口ずさんだ。
 アカシアの花咲くころに
  新彊出でて幾山河
 凍る敵地の陣営も
  雪と氷で・・・、と。
ニセアカシアの「ニセ」は「偽」ではなく学名。正式名は「ハリエンジュ」
【オーストラリア大陸に多く生息し、熱帯から温帯にかけて分布している、本来はオジギソウを指すミモザの名で親しまれているフサアカシアやギンヨウアカシアではない。】

次のようなことが駆除の理由としてあげられている。
◎ 外来生物が在来の生き物を食べてしまう
◎ 外来生物が育ち過ぎ、大木となって在来植物の生活の場を奪ってしまう
◎ 近縁の在来生物と交雑して雑種をつくってしまい、在来生物の遺伝的な独自性がなくなる
◎ 人の命・身体への影響(噛まれる、刺されるなど)が懸念される

今になって外来生物と嫌われるのは道理に合わない。明治の始めに輸入されたニセアカシアは信濃川河川敷など全国の緑化に役立っている。日本で育ち始めてからでも人の一生以上の寿命を生き続けて来ている。それに乱獲、乱伐採で在来種さえ危機にあるものだってあるだろうし、すでに絶滅した生物は数多くあるだろう。何百万年、何億年の単位で数えれば新参者であるかも知れないが、133年も経過した現在になって駆除とはそれ以外に取る手段はないのだろうか。それに花から取れるはちみつは色も香りも良く、レンゲに次ぐ高級品となっている。04年度の国産生産量2311トン、のうち約半分を占め、特に東日本の養蜂業はニセアカシアで成り立っているという。

だが、国の言い分は「繁殖力が旺盛で、日本固有種の生息域を侵す」との理由で環境省の要注意リストに昨年8月に掲載された。国の作業部会は今年度中に、現在のブラックバスなど動植物80種の特定外来生物に新たに追加指定する種を検討する方針のようである。

環境省は「必ず指定されるとは限らない。指定されても、伐採を勧めるが、法的には命令権はない」というが、新潟県環境企画課では指定を待ち望んでいるようで「指定されれば駆除が基本」との方針を崩していないという。要注意リストに入ったことで、伐採する自治体も出ており、新潟市では「松林を阻害する」として既に間伐を進めている。

これに対して新潟県養蜂協会(井出秀雄会長)は、
 景観と沿道の大気浄化に役立ってきた
 伐採は地球温暖化対策に逆行する
などとして、関係省庁に特定外来生物に指定しないよう、あるいは伐採を止めるように働きかけている。また、同協会は「河川管理や砂防林保護のためならやむを得ないが、全部が悪いというのはおかしい。伐採すればみつばち類が生き延びられない。スイカやメロンなどの自然受粉の機会も減る」と訴えている。

養蜂家といえばギリシャやハンガリー、フランスなども盛んで、はちみつを取ることで生計を立てているのだが、アメリカではちょっと様子が違うようだ。蜂蜜を取らないわけではないが、みつばちは蜜を取る以上にポリネーター(花粉交配媒体)として飼うことが多い。あの広大な農地でそれぞれの生物の受粉を自然の風だけに頼るのではなく、みつばち類を使ってより確実な交配をさせることが多いようだ。限られたビニールハウスの中で、個体数の少ない果実にはみつばちは特に必要とされないかも知れないが、2300トンを越すはちみつは広範囲をカバーするみつばちの力を借りなければ集められるものではないだろうし、その約半分を集めるというニセアカシアが伐採されることになれば、養蜂家だけでなく、はちみつを使う製菓業なども影響を受けることになるだろう。

恐竜やマンモスの絶滅が現実のこととして存在することを考えれば、海外起源などという問題はあるいはどうでも良いちっぽけなことかも知れないとも思うこともある。まだまだ30億年とも言われる地球の命、この地球上のどの地域に、何が生息し、どんな植物が生え、少しばかり分布に違いが出ようが、微々たる問題のようでもあるが。

|

« 加齢臭 | トップページ | 続・高松塚古墳 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 特定外来生物:

« 加齢臭 | トップページ | 続・高松塚古墳 »