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2006年6月 6日 (火)

多すぎる大学

小学校への英語導入を検討している一方で、大学では、もう一度小学校の国語の勉強のやり直しが必要な気配が生まれているようだ。毎日新聞で、6月5日から連載され出した驚くべき内容の実態を知らせる記事だ。

長野県塩尻市にある松本歯科大学にこの春入学した一年生を対象に行われたある講座がある。国語辞典、辞書機能付き携帯電話、パソコン(ワープロソフト可)など、何を使っても宜しい。講座名は「言語表現・日本語」。配られた紙に、ひらがなが羅列されている。次ぎのようなものだ。課題は、句読点を補って「漢字かな交じり文」に直すことというもの。気になることがある、“交じり”は“混じり”が正しいと思うのだが?交わるのではなくて、混合することだからだが、さて・・・。

〈ながねんにわたってはぶらしをまよこにうごかすはみがきをつづけているとしにくにちかいぶぶんがくさびじょうにすりへって・・・・〉と綴られた用紙である。

少し漢字に興味があれば、小学校4年生の力で十分答えられるものである。前に書いたが、私が小学4年の頃、全学同一問題で出されていた漢字書き取りではこの程度の問題なら、半数の生徒が楽に正解していただろう。当時使用していた漢字は旧字体で、常用漢字のような易しい字ではない。中にある「は」は「齒」。迷うとすれば、最初にある「ながねん」を「長年」にするか「永年」にするか、また、「わたる」を「渡る」と書くのは現在だが、本来は「亘る」か「亙る」だ。もう一つ、私の子ども時代なら「つづける」を今風に書けば「続ける」だが、私の小学生の頃には「續ける」、また「はぶらし」は今では漢字カナ交じりで「歯ブラシ」だが、小学生の頃には「齒刷子」と書かねばならなかった。「くさび」など小学4年生なら誰でも書ける。難しいのは「すりへる」だろう、①「磨り減る」②「擦り減る」③「摩り減る」④「摺り減る」と候補が上がるが、この場合は磨いて減るから①「磨り減る」でいいのだろう。どう考えても大学生に出すには見くびっていて遠慮の要る問題だと思えるが、驚くなかれ四苦八苦の体たらくだったようだ。

その場の雰囲気を伝える記事には全く持って驚かされる。この程度でどうして辞書や、ワープロが必要なのか理解に苦しむが、その場に集まった一年生の多くが苦しんだようだ。見廻る教師が時々助言する、ワープロを立ち上げたままのパソコン、途中で力尽きたのか、机に突っ伏したり、並んだ椅子に横たわる者もいたそうだ。

時間切れとなり、配られた模範解答と自分の答案を比べ、感想を書く。ある学生は、こんな感想を書いて提出した。「じしょがなかなか上手にひけなくてショックだった」(原文のまま)句読点なし、漢字知らずだ。
辞書の使い方さえ出来ないでいるのだ。長野県知事の田中氏が、テレビの娯楽番組に出演していた頃、出された言葉を広辞苑を使ってどれだけ素早く見つけだすか、に識者の加わる番組があった。ほぼ2600ページを瞬時に捲る田中氏に圧倒されて見た思い出がある。あかさたな、で並ぶ構成になっているから慣れればだれにでも出来る簡単なことだったが、当時は神業か、と思ったものだ。暇さえあれば携帯電話と睨めっこしている若い世代、下らない絵文字を描くのは得意なんだろうが、驚くばかりに国語力は低い。

歯科医師国家試験は毎年2月に実施される。今年の合格率は全体で80・8%だが、松本歯科大生たち(卒業生を含む)の合格率は52・9%にとどまった。「(国家試験出題者が)何を質問しているかを理解するには、日本語を基礎からきちんと教育しなければならない。そもそも患者とコミュニケーションが出来なければ歯科医師は努まらない」。松本歯科大学は今春、大きな改革を実施した。一年生全員に学生寮への入寮を義務付けた。「集団生活の中できちんとした生活態度を身につけさせ、カリキュラムについていけるようにする」のが目的と、森本副学長が話す。

大学生を高校、中学レベルの基礎から鍛え直そうという動きが全国に広がっている。文部科学省大学振興課によると、高校での学習状況に配慮して補習授業などに取り組む大学は、03年度国公私立421校に上っている。松本歯科大学の風景は、今や少しも珍しいものではなくなっている。

学生1万3000人を対象とする昨年の日本語能力テストで、国立大生の6%、私立大生の20%、短大生の35%が「中学生レベル」と判定された。「昔なら入学を許されなかった学力層が、少子化や進学率上昇でどんどん入学するようになった」。日本リメディアル教育学会の小野博会長の言だ。聞き慣れない名前だが、学会名は「(大学生向けの)やり直し教育」の意味だ。

平成14年には高校への進学率が96%になり、大学でも40から50%に近くなっている。戦前20校程度だった大学は現在、600校を超え、短大を含めると1049校の多きに上る。この他にも同数以上の専門学校があり、益々少子化の進む日本では、希望すれば誰でも何処でも好きな大学へ進学することが可能になるだろう。皮肉に言えば、勉強などしなくても金さえあれば誰でも大学生になれる。大学側も、金さえ入れば入学大歓迎だろう。出来の悪いやつらは卒業させなければいいんだから。それにしても日本は大学が多すぎる。あの広大なソビエト連邦ですら680校、日本の数はアメリカに次いで多い国だ。敗戦後雨後の筍よろしくにょきにょきと数を増やし、狭い領土にこぼれるほどの数になって行った大学とは名ばかりの学校。レベルは数の増加に比例したようにどんどん低下した。大学を出ても利するものは何もない、勉学熱も衰え、キャンパスは男女交遊の場に変化して行った。学力の低下は当然の帰結だろう。

企業に入って来る大卒新入社員、先輩たちの一番の苦労は言葉が通じないことなのを知っているのだろうか。理解力がなく、本人たちの人に伝える表現力はもっと乏しく未熟だ。限られた仲間の間だけのコミュニケーションで用が足りていたから、語彙も殆ど広がらず、人の話が理解できない。仕事にならない、と嘆く先輩たちは多い。

大学の数を現在の半分に減らせば少しは学問を学ぶ姿勢も出てくるだろう、いや、減って行かざるを得ない状況が見えている、増え過ぎた筍は枯れもし、腐りもする。新聞記事にも踊る文字『淘汰』が必要になるだろう。

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