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2006年5月18日 (木)

器に個性はいらない

「スリップウエア」
18世紀から19世紀にかけて英国でつくられた日用雑器で、模様を描くのに使われる化粧土(スリップ)が名前の由来になった焼き物。この焼き物を現代に蘇らせて作り続けている陶芸家がいる。東京都生まれ、柴田雅章氏(国画会会員、大阪日本民芸館理事・展示主任、57歳)

大正期、民芸運動の創始者・柳宗悦や浜田庄司、バーナード・リーチらによって、その美が発見され、日本に紹介されている。暮らしと仕事が一体化していた時代、土を掘り、生活の灰を釉薬(ゆうやく=うわぐすり)に使い、薪で窯を炊いた。彼はいう、「そうやって出来た器は日常使うものでも動かしがたい強さを持っている」そんな「暮らしの力」を意識しながら、丹波篠山で灰釉と登り窯による「現代のスリップウエア」を作り続けている。1975年に登り窯を作り、「柳や浜田にくらべれば、まだ力は弱いけれど、技術を途絶えさせないためにも続けなければならない」と、日本に持ち込まれたスリップウエアのリストを作り、世界最大と言ってもいい展覧会を日本国内で03年から04年にかけて開催している。

人間国宝、或いは著明な作家の手になる使用を目的としない日常品、気楽にお茶も飲めないような茶碗、花も活けられることもなく眺めるだけに飾られる花瓶、直に手で触れることも叶わぬ壷。作るそばから何十万何百万の値がつく陶器やその他のもの。そのような物には何の価値もない。日常使って傷ついて、破損してこそ意義の有る茶碗や花瓶なのだ。柳や浜田らが見い出したのは、消費の中にある美、であったのだと思う。芸術は爆発だ!!で有名な岡本太郎、彼がパリから戻り、見い出した縄文土器の美もそうであった。決して稚拙と言うべきものではない。現代陶芸家も及ばないセンスを持ち、高い技術を持った人たちだったのだ。それを生業(なりわい)とする特種の人たちの作ったものではなく、至る所で誰でもが作る技術を所有していた。生活に使用するのに如何に便利に、使いやすく、壊れてもすぐに代わりが手に入る。日常雑器の真骨頂と言える。

かれらはそこから形を変え(デフォルメ)ることを知り、変形(バリエーション)を生んで行く。決して個性ではない、どちらかといえば、没個性だ。何百年に亙って殆ど変わらぬ形を持ち続ける。遺跡から出土する数えきれないそれらの遺物を見れば、いかに使いやすく作られ、壊れやすいかも理解できるだろう。人の目に触れない密室で、好事家だけが手にし、にやにやするものを作っても、それはもはや日常雑器ではない。

姫路城の中庭に「お菊井戸」と呼ばれる井戸がある。城が築かれる以前、そこにあった屋敷跡が取り込まれて姫路城が築城されたのだが、そこには以前青山播磨なる侍の屋敷があった。家代々伝わる家宝の10枚揃いの皿を、女中の菊なる女が1枚破損した。播磨はお家乗っ取りの悪だくみで菊が皿を割るように仕向けたのだが、渡りに船と問答無用で女を切り捨て、井戸に投げ捨てた。そのことがあってから、夜な夜なその井戸から「1枚、2枚、3枚・・・・9枚・・・・、1枚足りない」と女の啜り泣く声が聞こえてきた。これはご存知『番長皿屋敷』だが、生者必滅会者定離、形の有るものは何時かは必ず壊れる。その度に殺されては命が幾つあっても助からない。

高松塚古墳の内部壁画、密室の中でどんどん劣化が進んで行く。元々は人の手を入れてはならない他人の墓だ。そこに禁を犯して侵入し、学術調査だ、歴史の解明だと勝手なことをする。限られた特権保有者だけの世界だから悪事も闇の中、となる。前にも書いた、一刻も早く解体し、現在の科学で万全と思う対策を取ることが必要だろう。密室で放置することが最も危険な保存状態となる。小西六がカラー写真(銀塩写真)の長期保存可能の年次を100年と謳って発表し、フジフィルムはそれ以上、と追いかけたことがあった。写真より先に会社が消えそうだ。高松塚古墳、現時点でどう対策しても、この先何千年、何万年を維持する保証などないに決まっている。

岡本太郎が1954年に仲間と作った「今日の芸術」初版誌上の言葉。
 今日の芸術は
  うまくあってはならない
  きれいであってはならない
  ここちよくあってならない
 と、私は宣言します。それが芸術の根本条件と確信するからです。

Brown_cup_2

 こちらは稚拙。現在40歳近い長男が、小学二年の頃の作


Bird_cup_1

 内部には小鳥が泳ぐアイデアだ

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