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2006年5月19日 (金)

モーツアルト症候群

Maestro

 くつろぎのときを過ごす部屋の壁


Wamozart

 ヴァイオリンを抱える少年時代のモーツアルト(銅板・エッチング)



15年前に没後200年の盛り沢山の記念行事が終わったばかりだが、低迷する業界も旨い汁を吸ったのだろう、今度は生誕250年で二尾目の泥鰌を狙って、動いているが、今度はちょっと違うようだ。近年とみに流行りになっている癒しに注目したコンサートが開かれ、モーツアルトの曲を集めたストレス解消や健康効果をうたったCDも作られているようだ。

「モーツアルト健康法」を提唱している埼玉医科大の和合治久教授の研究室では、数人の学生たちがヘッドホンを耳して、一心にモーツアルトを聴いて、人体への反応を調べる実験に参加している。
なぜ、モーツアルトなのか。「モーツアルトの音楽には、ストレスの溜まった体をリラックスさせる副交感神経を刺激して、バランスを取ってくれる効果がある」と教授は言う。モーツアルトの曲には
 ⑴ 人間が聴きやすい4000ヘルツ前後の音が多いこと
 ⑵ 小川のせせらぎのような人間にとって心地よい「ゆらぎ*」があること
  * ゆらぎとは、ほぼ一定のリズムの中に、ある程度の不規則性が含まれる状態のこと。
などが理由に上げられる。

1993年、アメリカ・ウィスコンシン大学の研究者たちが、モーツアルトの曲を聴くと知能指数(IQ)が向上するという実験結果をイギリスの科学誌「ネイチャー」に発表したことがある。「モーツアルト効果」とそいて世界的な注目を集めたが、アメリカ・ハーバード大学の研究者らが99年、その効果を否定する論文を同誌に発表した。和合教授も「音楽を聴いてリラックスし、集中力が増加しただけで、IQとは関係ないと思う」と懐疑的である。

そもそも【音楽療法】とは音楽の演奏、鑑賞で心身の健康を増進する療法。音楽の効果は古くから知られているが、現代の音楽療法は第一次、第二次世界大戦で心身が傷ついた兵士の治療を契機に、アメリカで発達した。認知症や知的・発達障害、総合失調症などの治療や、、入院患者の心の安定などに用いられている。

右と言えば右に、左といえば左に、一斉に動き出す日本人、一昔前、日本人が団地住まいに慣れ始めたころ、一軒の家にピアノが運び込まれたとする。ドアの隙間から何人もの奥さんたちがじっと息を殺してその様子を覗いている。旦那が仕事から帰ってくると、どこの家でもピアノ購入の話でひざ詰め談判が交わされる。間もなく誰某の家には遅れを取りたくない、と我先にピアノが運び込まれる。わが子の才能などには関係なく、対抗意識と見栄の投資だった家庭では、嫁入り道具にもならずに埃をかぶったまま邪魔な存在に成り下がる。これは一種のピアノ症候群、現在のモーツアルトも言うなればモーツアルト症候群だ。

誰かが「良い、効く、確かに」と言えばそっちに飛びつく。日本人の主体性のない付和雷同の流行(ファッション、化粧、衣服、髪型、などなど)を追い掛ける心理と寸分違わない。小沢が評判になれば彼のCDに飛びつく、ハリー・ポッターに飛びつく、韓国ドラマや、ペ、に飛びつくのと同じだ。政治すらその傾向にある。人気投票か票取りか、のレベルでしか選挙は認識されない。施策など空っぽでも人気は続く。

モーツアルトも同じだ。もともとビールのジョッキ片手で飲みながら聴ける音楽の多かった彼の曲、或いはヘンデルの曲。大体が「ターヘルムジーク」なる言葉は、「食事の音楽」という意味だ。皇帝貴族たちが、わいわい、がやがやと喋りながら食事する傍らで、楽員たちが、食欲が進むように、優しく弾いて聴かせたのが「ターヘルムジーク」だ。それをクラシック音楽というジャンル分けで、いかにも高貴ぶって、咳(しわぶき)一つ許されない別空間の雰囲気を作り上げ、タキシードに夜会服にしてしまった罪は誰にあるのか。確かに、ベートーベンのような苦虫を噛み潰したような、いかつい顔面とそれに似合った音づくりの曲もあり、畏まって拝聴する気にさせる音楽もある。また、厳かな雰囲気の教会で聴くに相応しい曲もある。

今の日本のモーツアルト、これはもう医学の世界で言う「ポリシーボ効果」としか言い様がない。昔、行商の薬売りをからかった囃し歌があった。「鼻くそまるめて萬金胆」だ。「どこが悪いの?ああ。そう、それじゃこれでも飲んで置きなさい」。医者が渡したのはただの「水」だった。それでも医者に貰った「水」を飲んだ患者は‘けろり’と熱も下がり、治ってしまった、という。「水」は魔法の「くすり」となって効果を現すのだ。これをポリシーボ「ポリシボ」効果という。こうなればもうモーツアルトでないと効かない。他の作曲家ではダメになる。誰でも好きな音があり、それぞれに心を休めてくれる曲があるはずだがどうにもならない。これはもう症候群の弊害でしかない。モーツアルトのどの曲にも安らぎの音が鏤(ちりば)められている訳じゃない。不協和音の多い頭が狂いそうな曲だってある。

心安らぐ音楽は人それぞれにあって、好みも異なる。人それぞれお互いに好きな曲を聴けばよい、それは何もモーツアルトには限らない。年老いてきた私には、若いころ敬遠していたバッハが最も心に響き、気も静まる。

現在の日本のモーツアルトを流行りの言葉で言えば、間違いない、
 『モーツアルト・シンドローム』という病気だ。

 

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