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2006年3月20日 (月)

母子健康手帳改定案

毎日新聞(3/18)から
自民党の新人衆議院議員でつくる「男女共同参画新人議員勉強会」(会長・萩原誠司、広津素子両議員)は18日、妊娠、出産に伴う母性保護などについて定めた母子保険法改正案を議員立法で今国会に提出する方針を決めた。父親の育児参加を促すため、妊娠女性に配る「母子健康手帳」を父親も交付対象とする「親子健康手帳」に改めるのが柱になる。日本は欧米に比べて男性の家事・育児時間が突出して短く、法改正によって意識改革を図りたい考えのようである。自民党執行部も改正案を後押ししている、としている。

現在までには幾度も改正が重ねられたものだが、「妊産婦手帳」から「母子手帳」になり、昭和40(1965)年に母子保険法が成立したのに伴い現在の「母子健康手帳」に改名されたものである。「妊産婦手帳」がお目見えしたのは昭和17(1942)年7月、第2次世界大戦2年目の年である。日本の男たちは徴兵で次々と戦地に送りだされていた。すでに戦争の形勢は芳しくなく、目に見えて男の数が減っていた。国是は女性に兵士の補充が必要になり「産めよ増やせよ」と呼び掛けて子を多く産むことが奨励された。当時は妊娠中の配慮や保護といった概念は乏しく、無事に出産できればそれでよい、といった意識が一般的であった。

昭和15(1940)年当時の妊産婦の死亡件数は年間5.000人を超えていた。その原因の20〜30%が妊娠中毒症であり、その早期発見による治療、早産の予防など妊娠中の管理の重要性、なかでも死亡を減少させるためには妊娠の早期の届け出、施設での分娩の徹底が必要になっていた。【因に最近の妊産婦の死亡数は(1985年)226人、(1989)135人、(1998)86人、(2003)69人となっている】

当時は戦争中であり、様々な物が不足して配給制度になっていたが、この手帳を持っていれば米、出産用脱脂綿、腹帯用さらし綿、砂糖などの配給をうけることができた。出産すると出していた出産申告書は現在の出生証明書に近いもので、これを見せるとミルクが貰えることから届出をする人が増え、制度も軌道にのって行った。
手帳には妊産婦の心得、妊産婦・新生児の健康状態、分娩の記事欄、出産申告書が綴られていた。

昭和22(1947)年、敗戦後に児童福祉法が成立する。これに基づいて妊産婦手帳が妊娠中から出産までしか記録されなかったのを、小児まで拡大して「母子手帳」となって、昭和23(1948)年に改正された。そこには子どもの健康状態や予防接種の記録が加わり、幾つかの内容に訂正が加わったが、昭和40(1965)年に母子保健法の成立で「母子健康手帳」になるまで19年間に亙って続いていた。今でも「ぼしてちょう」と云う方が親しみを持たれて通用している。母子手帳の大きな効果として、自宅分娩の多かった戦前の習慣から入院(産院等施設内)分娩の普及(現在時、99・9%)があった。昭和22(1947)年当時4・5%に過ぎなかった院内出産、自宅出産比完全に逆転している。

その後も度々改正され、昭和51(1976)年には全面改正がなされ、従来医学的な記載が多くあったものを、妊婦たちの記録欄が加えられて、母と子の健康記録の性格が強化された。平成3(1991)年には母子保健法の改正に伴い手帳交付事務が市町村に委譲され、医学的記録と保護者等の記録の部分は全国統一とし、行政情報、保健・育児情報などの記載項目(妊産婦の健康、新生児、乳幼児の養育、予防接種、制度についての情報)のみを定め、その内容については各自治体の裁量に委ねられた。

これに対して今回の新人議員勉強会「父親も妊娠、出産や育児に参加、協力する趣旨を盛り込むべきだ」と主張している。名称を親子手帳(案)として交付対象を「妊娠の届け出をしたもの叉はその配偶者」に拡大する考えのようだ。「母性に妊娠、出産、育児への理解」を求めた規定も「母性及びその夫」の努力義務に変える案を検討している。表現がおかしいが、「母性及びその父性」はもっとおかしい。

内閣府による各国比較、1日に夫の育児・家事時間は
 スウェーデン 3・7時間
 ドイツ    3・5時間
 イギリス   3・2時間
 アメリカ   2・6時間
 日本     0・8時間
いつも日本の夫の協力が如何に少ないかが強調される比較になるが、その国の種々の国情を考慮して考える必要があり、単に数字だけを並べても説得力はない。

所管する厚生労働省はさすがに真っ当なことを云っている。
「母子の健康を守る法律だ。妊娠するのは女性であり、カルテ同様のことが記載されているものを父親に提供すべきでない」と慎重な姿勢だ。

ジェンダー流行りの昨今、母子健康手帳の母の字にこだわっているようだ。もしも父子手帳なるものが存在していれば、男だけが書かれているのはけしからん、男尊女卑だと云うことであろう。母子健康手帳は母子保健法の精神に則したもので、「妊婦は自ら進んで母子保健に関する知識の習得ならびに母性及び乳幼児の健康の保持増進につとめる」とされ、これから母になる女性に向けられたメッセージを持つものである。何も親子に改名しなくとも夫の協力は年を追って増加しており、昔は女性の側から男の立ち会いは拒否した出産の場にさえ出入りし、出産は病気ではないと理解していた男性側も、分娩の枕元で手を握り、呼吸を併せてハーハー、フーフーとリズムを取り、果ては出産の瞬間の写真さえ取られることも厭わない女性もいるのだ。生まれてから後の育児も少ないながら参画する男性は確実に増えている。手帳の名称など変える必要はなく、今のままで「母子健康手帳」で十分だ。いや、名称だけならその前の「母子手帳」の方がなお良かった。

 

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