ロンドンのクジラ
誰の、どのようなレポートや記事を見ても、読んでもロンドンのテムズ川の汚さは尋常ではないようだ。今から29年前この川を渡った時にロンドンタワーにも入ったが、幸いロンドン橋はバスの中だった。臭いを嗅がなくて済んでいたのだ。当時はもっと汚かったろうと思う。現在のこの川は余りの汚さに浄化の努力をし、改善されて来ていたと聞いていた。しかし、今回(1/21)の川に迷い込んだクジラ騒ぎに絡んでレポートを見聞きしても、その汚さは全く改善されていないようだ。話ではクジラが死んだのは汚いテムズ川の水を飲んだからだ、ということさえ云われるほどのようだ。
ところが25日になってイギリスの一流紙(タイムス、インデペンデント)に環境保護を訴える人たち(グリンピース)が、汚い川が話題になるのを牽制するかのように、日本の調査捕鯨を批判する広告を掲載して日本大使館へ抗議するように市民へ呼び掛けた。広告には川に迷い込んだクジラを助ける写真と、日本の捕鯨船内のクジラの写真を並べて刷り込み、呼び掛けは「一頭のクジラの死が世界の注目を集める一方で、日本の捕鯨業者は1,000頭以上の虐殺を計画している。犯罪をやめさせたいなら今、行動して」と書かれている。更に、電話やメールで日本大使館に抗議するように呼び掛けている。
広告を出したグループはさまざまな環境問題について、いろいろな機会を捕らえて主張をアピールしているという。主宰したピーター・マイアズ氏は「テムズ川の騒動があり、クジラ問題に関心を持ってもらう好機会だった」という。実際、大使館には25日には抗議電話が約20件、メールが約50件寄せられた。
抗議する彼らは現在これほどまでに少なくなったクジラを彼らの云う“虐殺”して来たのは何処の国なのか歴史を学んでいないのだろうか。世界中に今尚エリザベス女王を元首と戴く国々が存在する一大植民政策で、世界中を暴れ廻り、19世紀の初頭にはイギリス船団により大西洋のクジラは壊滅的な減少となるや、赤道を下って南氷洋にまで進出。1949年50年には世界最大の捕鯨母船バリーナを擁し、“虐殺”はシロナガス鯨換算でイギリス船団が1,758頭、日本が約1,300頭の数字を残しているのだ。当時の日本の国際競争力はBクラスでしかなかったのだ。しかも西洋の捕鯨が鯨油だけを必要としていたのに、日本は西洋が廃棄していた鯨肉を食する食文化を持っていた。1950年といえば敗戦後の日本は食糧難を味わっていた。アメリカ占領軍指令部(GHQ)は南極での捕鯨を認め、日本の食卓に鯨は欠かせない食べ物になっていた。
1610年、世界に魁けてイギリスが捕鯨を始めていた。イギリス国内の犯罪者を流刑人として送り込んでいた北アメリカの植民地ニューイングランドで捕鯨産業が興隆を見せ、18世紀の末頃にはイングランドとスコットランドの捕鯨船団が大西洋を席巻していた。19世紀の初頭には大西洋の鯨は減少し、当時の2大植民地国であったフランスと戦って敗れたイギリスは捕鯨の独占が崩れ、代わってアメリカの捕鯨活動が活気づくことになった。1847年にはアメリカの捕鯨船の数は世界中で900隻のうち722隻を占めていた。石油が発掘されるまでアメリカは鯨油に頼っていたのだ。アメリカの独立でイギリスからの罪人の流刑地を失ったイギリスは、遠くオーストラリアに罪人を送り込むと同時に原住民の殺戮を繰り返して住み着き、捕鯨基地を置いた。
1850年代アメリカのニューベッドフォードが捕鯨港の中心となるが、次第にアメリカの捕鯨産業は衰退して行く。間もなく(1863年)ノルウェーで捕鯨砲が発明されて一気に捕獲効率がアップする。その頃からノルウェーでのセミクジラの捕獲数が目に見えて減り、1902年に1,305頭だった数が10年後の1912年には15頭にまで激減する。鯨の保護が始めて考えられるようになり、1935年、セミクジラ、ホッキョククジラの全面保護が実施され、続々と続く捕鯨禁止に繋がって行く。
1946年 国際捕鯨委員会(IWC)が設立される
1951年 日本が IWC に加盟
1966年 ザトウクジラの全面保護
1967年 シロナガスクジラの全面保護
1973年 カナダ・バハマが捕獲を中止する
1976年 ナガスクジラの全面保護
1982年 商業捕鯨禁止措置(モラトリアム)が採択される
1988年 日本が商業捕鯨を中止する
グリンピースは現在日本が北大平洋鯨類捕獲調査計画(JARPN)と南極海鯨類捕獲(JARPA)の調査捕鯨プログラムに基づいて調査捕鯨を行っいることを非難するものである。遡れば日本に全く非がないとはいえないにしても、それを上回る“虐殺”をしてきた国の言えることではない。鯨に留まらない、陸の動物においても銃社会の国の人間たちがやって来て象牙を取るための虐殺、毛皮が目的の野獣の殺戮、大量殺戮の結果固体数を少なくしておいて、動物保護を叫ぶのは如何なものか。学者によっては世界で魚類の収穫が年々減少するのは増えて行く鯨類が餌として大量の小魚を必要とするからだ、という。モラトリアムを踏まえ調査捕鯨プログラムを守って調査捕鯨を行っている日本を非難する前に、誰が見ても汚い川、観光客が口を揃えて汚いと見る川、ひょっとしてその水を飲んで死んだかも知れないクジラを慰霊して、汚濁した水質を澄み切った水の流れる川に復元するよう、自分たちの頭の上の蠅を追った方がいいのではないか。
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コメント
私のBlogの方にコメント頂き、ありがとうございました。
捕鯨の問題以外にも、様々な事柄を深いところから考察されており、大変興味深いです。
いろいろと勉強になります。
あと、私のBlogの方にリンクを貼らせていただいてもかまわないでしょうか?
よろしくお願いいたします。
投稿: ひろ | 2006年1月31日 (火) 16時58分
ひろさん の blog にご返事差し上げました。お目通し下さい。
投稿: 小言こうべい | 2006年1月31日 (火) 21時53分